カラフルラプソディ

□もうマネージャーなんて、やらない
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『……』



校庭のイチョウが色付き初め、秋の色に染まりつつある今。
クラスの友人達は、高校入試の勉強に終われているらしく家庭での自主学習や塾に行く者達ばかり。

一人教室に残る彼女は、推薦入試を受けることが決まっていて。
彼女が志望した高校は、彼女の学力と内申ならば余程のことがない限り心配はないだろうと担任が嬉しそうに話していたのは先日の三者面談だった。



『……帰ろっと』



つい考え事をしていたらいつの間にかこんな時間になってしまっていた。遠くまで続いていく夕焼け空を見つめていた彼女は、どこか寂し気に見えて。

ずっとずっと、この1年近く悩んでいたことがある。自分ではもう、どうすることも出来ない悩み。
いや、本当はもう何もしようとは思わない悩み、そう言い聞かせてきていた。



「――――結衣」



凛とした声が、突然教室に響いた。彼女の声ではない。
だが、彼女はこの声の主が誰なのかすぐに気付いた。この3年間、よく聞いていた声。

出来ることなら、今会いたくない人。彼に会う前に帰りたかった。



『……久しぶり、征十郎』



結衣、と呼ばれた彼女が振り向くと教室の後ろの扉に背中を預けてこちらを見る赤髪の少年と目が合った。
彼の名前は、赤司征十郎。結衣がかつてマネージャーとして入部していた男子バスケットボール部のキャプテンを約2年間勤めた男。



「ようやく落ち着いて話せるよ。あれから、お前はまるで僕らから逃げるように過ごしていたからね」



黒子と同じように、と語る赤司の視線が鋭く結衣は居心地の悪さを感じて。心の中でこっそり溜め息をついた。

まるで僕らから逃げるように、と赤司は言ったが、正にその通りだった。結衣は避けていた、彼らのことを。
日中もなるべく彼らと会わないように、顔を合わせてしまってもなるべく話をしないようにして過ごしてきていた。



『…征十郎の気のせいじゃない?どうしてわたしがみんなを避けなきゃいけないの』

「さあ、どうしてだろうね」

『……』



まるで全て分かっているかのように口元に笑みを浮かべる赤司に、思わず眉間にシワが寄ってしまいそうになる。
彼は、そういう人だった。何もかも見透かしているような、左右の色の違う瞳が真っ直ぐ結衣を見つめている。



「結衣、僕らの進学先については聞いているかい?」

『…監督から聞いてる。わたしには関係のない話だけどね』



まだ正式決定ではないが、キセキの世代と呼ばれた5人の進学先は大方決まったと先日男子バスケットボール部の監督である真田から聞いていた。決して結衣から聞いたわけではない。
真田が直接結衣に伝えに来たのだ。

彼はとても申し訳なさそうな表情を結衣に向け、すまない、という言葉を以前から何度も口にしていて。結衣は何も返すことが出来なかった。



『5人それぞれ、別々の高校になるんだね。スポーツ推薦おめでとう』



ある者は秋田の陽泉高校
ある者は神奈川の海常高校
ある者は東京の秀徳高校
ある者は東京の桐皇学園高校
そしてある者は京都の洛山高校

5人それぞれが、各高校からのスカウトを受け進学を決めたらしい。



「結衣」

『全国大会…高校ではインターハイか。5人揃ったら凄そうだね。どこが勝つのか分からないや。チケット取れたら見に行くね。インターハイって8月だよね、予定入れないようにしなくちゃ』

「結衣」

『……なによ』



赤司がゆっくり結衣の元に歩み寄って来る。
そして、結衣の目の前に立ち彼女を見下ろした。



「僕は京都の洛山高校へ行く」

『……知ってる』

「敦は秋田、涼太は神奈川、真太郎と大輝は東京に残るそうだよ」

『それも知ってるけど…』



さっき監督から聞いたって言ったじゃない、と結衣が首を傾げながら赤司を見遣った。
相変わらず赤司は口元に笑みを浮かべて結衣を見ている。



『どうしたの?進学先の話をしに来たならわたし興味ないから、もう』

「僕と一緒に京都においで」

『行く、ね…………え??』



結衣の言葉を遮るようにして聞こえてきた言葉に、結衣は大きな瞳を更に大きくして赤司を見つめた。今、彼は何と言ったのだろう。
聞き間違いかと思ったその言葉だったが、赤司の差し出す右手を見るにどうやら聞き間違いではないようで。



『なに、言ってるの…』

「僕は京都の洛山高校へ行く。だから結衣も共に洛山へ行かないかと言っているんだけど」

『お断りよ』



何の迷いもなく、そして少し怒ったような気配を瞳の奥に隠しながら、結衣は真っ直ぐ赤司を見つめ返した。











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