カラフルラプソディ
□もしかしてこの学校バスケ強いの?!
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『…1年B組か』
玄関に貼り出された新入生のクラス表を眺め、自分の名前を探し出す。
案外早めに自分の名前を見付けることが出来た結衣は、名前を探している人混みを離れB組の教室へ向かう。
「じゃあ、お母さん体育館に行ってるね」
『うん、分かった』
母親とも別行動。
保護者は入学式が行われる体育館に集まるようになっているらしい。他の保護者も自分の子供と離れ体育館に向かっているようだ。
『1年B組…1年B組……あった、ココか…』
教室に入ると、もう新入生がちらほら席に着いている。黒板に目をやると、座席表が貼られていた。
さて、自分の席はどこだろうか。後ろの方が良いな、と願いを込めつつ、座席表を覗き込む。
『…名簿順じゃないんだ』
大体最初は名簿順の席順になっていると思っていたが、ここは違うらしい。
てっきり、あ行の人が廊下側から並んでいくのかと思っていたら違うようで。
『ま、一番後ろラッキー』
入学初日から幸先が良い。
口元が緩みそうになるのを何とか抑えて、自分の席へと向かう。急にニヤニヤしだしたら怪しいことこの上ない。
そういえば、自分のまわりの席の名前を確認するのを忘れていた。窓側の一番後ろのため、一番近い席となるのは隣と左斜め前と、自分の前の席のみ。女子でありますように、と心の中で呟く。
『…まだ前も隣も来てないか』
自分の席について、教室を見まわす。まだ緊張したような、お互い様子を見あっているような、そんな雰囲気。
なかなか自分から、しかもこんな最初から声をかける勇気はなんとなく持てなかった結衣は、視線を窓の外に向けて青い空を眺める。
中学の時は、小学校からの同級生がほとんどであったり、小学校は別でも同じ幼稚園に通っていた子とも再会したりと、そこまで初めましてな雰囲気になるようなことはなかった。だからこそ、全くの面識の無い人ばかりのこの状況に少し緊張している自分に、意外に自分は人見知りだったのだろうかとぼんやり考えていた結衣だった。
『…(うっ…わー…)』
外を見ながらそんなことを考えていた結衣だったが、ふと教室に視線を戻すとこちらの方に向かって歩いてくる赤髪の男に気が付いた。
とんでもなく背の高い、しかも体つきもガッシリした男。
『(身長は190ってところかな…バスケやってんのかな…?強くなりそうだなー……って、違う違う)』
自分の左斜め前に座った彼を眺めながら、ついそんなことを考えてしまったが頭を振ってその考えをかき消す。ついいつもの癖で分析をしそうになってしまったが、それをしていたら結局何も変わらない。
彼がバスケをしていようがバレーをしていようがサッカーをしていようが、何だっていいのだ。
『(隣の席ー…女の子であってちょうだいー…)』
現在9時50分ちょっと前。
10時までに登校するように、とのことだった為ほとんどの生徒が教室に入って来てるようだ。はよ来い隣の席の人、と願う。ちなみに前の席も男子だった。
『………っ』
教室の入口を、期待を込めて見ていたら入って来た1人の少年。
少年が入って来ても、教室にいる生徒達はまるで気付いていないかのように少年を見ない。他の人が入って来たら、チラリと見遣るのに。
少年は黒板に貼られた紙を見たあと、結衣の方に歩いて来る。その間も、誰も気付いていないような雰囲気。側を通っても、全く。
だが、結衣は目を離すことが出来ない。
何故、彼がここにいるのかと驚きでいっぱいである。
少年は、戸惑うことも何もなく結衣の右隣に座った。
『………な、んで…』
右隣に座った少年から目が離せない。体も動かない。
少年は、ジッと自分を見る視線に気付いたのかゆっくりと結衣の方を見た。
「あ、おはようございます」
『あ、うん、おはよう………………じゃなくて!!!!』
大声を上げていきなり立ち上がった結衣に驚いたのか、クラス中の視線が彼女に集まった。
注目を浴びてしまった結衣は恥ずかしさでいっぱいになり、すみませんと小さく謝って自分の席に座り直す。
そして、隣の席の少年に向き直った。
『テ、テツどうしてここにいるの!?』
「どうしてって…この学校に入学したからです」
隣の席の少年。
結衣の中学の同級生であり、同じ部活仲間だった。名前を黒子テツヤ。
『き、聞いてない!!…いや…聞いてたっけ?いやいや聞いてないよ!嘘、もしかしてこの学校バスケ強いの?!』
「それなりに強いみたいです」
『嘘でしょ…新設校だからそんなに強くないと思ってたのに………いや、近付かなきゃ良いのよね、うん』
「?」
不思議そうな顔で結衣を見ている黒子。
色々衝撃的すぎて混乱してるらしい結衣は、頭を抱えて机に伏せてしまった。
『…何か出鼻を挫かれたわ…』
「大丈夫ですか?」
『…大丈夫じゃない』
「……」
誠凛高校男子バスケットボール部。黒子が選んだ高校、ということはそれなりの成績を修めているのだろう。
ちゃんと調べておけば良かった、と後悔する結衣だったが、ふとある考えがよぎる。
キセキの世代と幻のシックスマンは有名だけれど、マネージャーまでは知名度ない、はず。
結衣はそんなことを考えていたのだが、マネージャーもしっかり取材を受けていたこと、しかも写真も載っていたことも相まって彼女たちもそれなりに知名度がある。
『うん、大丈夫』
「結衣さん?」
何が大丈夫なんです?と不思議そうな黒子に、何でもないとごまかした。
自分はバスケから離れると決めたのだから。
『―――……寝ちゃうかと思ったわ』
「確かに。僕も少し眠たかったです」
『………』
3年間で慣れたとは言え、黒子の影の薄さにはやはり驚いてしまう。
黒子テツヤの影の薄さは半端じゃない、というのは帝光中の一部ではとても有名な話。バスケ部くらいではないと対応出来ないと言われていたほど。
『テツは…バスケするの?』
「……はい、そのつもりです」
『そっか…だよねぇ』
「結衣さんは続けないんですか?」
『うん、そのつもり』
結衣の言葉を聞いて、少し眉を下げた黒子はそのまま黙ってしまい。
なんとなく気まずい雰囲気になってしまい、その空気に耐えられなかった結衣が慌てたように話題を変える。
『あ、そういえばさ!』
「?」
『涼ちゃんに一緒に来ないかって誘われたらしいね?』
「ああ…はい。断りましたけど」
『んなあっさり…』
「結衣さんは黄瀬君に誘われなかったんですか?」
『…バスケから離れるつもりだったから…断ったの。まさか誠凛がまあまあ強豪校だったなんて…』
結衣と黒子が同じ高校に進学した、ということを黄瀬が知ったら怒るのではないか。
ほぼ間違いなく拗ねるか怒るか泣くかのアクションを起こされてしまうだろう、と結衣はこっそり遠い目になったのを黒子は見逃さなかった。
『ごめん涼ちゃん…』
「…」
『あ、今日からバスケ部に顔出すの?』
「はい。午後から体育館で練習あるみたいなので」
『そっか……頑張れテツ。目指せレギュラー』
「…いきなりハードル高いです」
『何言ってんの。もっと自分の能力に自信持ちなさいよねー』
「……」
照れたような表情で頬をかく黒子に、思わず頬が緩む。
彼は自分の評価が限りなく低い。自分の能力は誰も真似出来ない唯一無二のもので、その力でチームを何度も救ったり勝利に貢献したりしてきていたのだ。
『大丈夫だよテツ!ふふ、みんな驚くだろうねーテツの能力見たら!』
「…頑張ります」
『うん、頑張れテツ!』
結衣の笑顔に黒子もつられて微笑む。
黒子の力をこのチームが扱えるかどうかは別にして、彼のプレースタイルを見てどんな反応が見られるのか…明日、その話が聞けるのを楽しみに思った結衣だった。