novel

□honeyed words
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「リボーン。明日から1週間日本支部で出張だから」

 3月10日。オレはリボーンに出張を言い渡した。決してホワイトデーが怖かったから事前に回避させようとしたわけでは無い。偶々、そう、本当に偶々偶然出張の話が出て、恐ろしく低い確率の元、リボーンが選ばれたのだ。故意にやっただなんて、そんなことあるわけないだろう?
 リボーンが「嘘だよな?」「考え直せツナ、オレより適任なのがそこにいるだろう!」「獄寺あたりにでも任せておけばいいだろ!!」と飛行機に乗る直前まで喚いていたので、鳩尾に一発くらわしてやった。余談だが、ボンゴレアジトの敷地内には滑走路が数本ひかれている。堂々と空港で離発着をしても良いのだが、如何せん職業柄目立つ行為は極力避けたい。今回は、きっちり日本行の航空券を手配していたのだが、リボーンが可愛くもない駄々をこねて、その券はおじゃん。仕方がないからこうして自家用ジェットで送り出してやっているのだ。
 
「いい加減、諦めてよ」

 仕事なんだから。そう言うと、仕事に関してはプライドの高いリボーンがピクリと肩を震わせた。あと一押しだ。

「最強のヒットマンでしょ? いいの? 『リボーンが仕事を放り出して遊びほうけていた』『リボーンは敵に背を向けて逃げたらしい』とかいう噂が流れても」

 噂には尾ひれがついて回る物だ。それをリボーン自身知っているからこそ、この手の言葉は効く筈である。

「……分かった」

 ため息を吐いて機内へと消えて行った。しぶしぶと言った様子だが、何とか送り出せたのだ。それに満足したオレは、内心ガッツポーズをした。これで14日は平和に迎えられる!! と。
 守護者は、まぁどうにでもなる。大人しく受け取って、それでもダメなら拳で黙らせる。
機体から離れた。ゆっくりと前進を始め、やがて空へと上がっていった。風はあまり強くないので、安定した飛行が出来るだろう。

「さて、リボーンがいない間にリフレッシュするぞ!!」

 腕をグッと伸ばして、伸びをした。疲れが吹き飛ぶようだ。
 それが11日の出来事。そして今日は14日。守護者陣からのお返しはやっぱり唯では終わらなかった。一日中付き纏われ、誰のプレゼントが一番嬉しかったかを問い詰められ、仕方がないので一人を上げると「誰か縄とキャンプファイヤーの準備をしろ」と据わった目で自身の部下に言いつけていた者(主に獄寺くん)、トンファーを振り回していた者(雲雀さん)、ひたすらパイナップルの幻覚を見せるパイナップルの精が見受けられた。夕方にもなると、流石にいい加減にしろと叫びたくなった。まぁ叫ぶ前に全員床に寝かしつけたが。
 ……最近リボーンのせいですぐ暴力に訴えるようになってきた気がする。これは良くない傾向だ。明日からは昔の様に口で止めるように心がけよう。出来るだけ、だけど。
 腕時計に目をやった。後30分ほどで今日が終わる。でもオレは徹夜コースで、これからまだまだ働かなくてはならない。内容は主に守護者の事後処理の書類のサイン。山と積まれていて、毎回辟易する。

「それにしても、何かいつもの倍くらいあるような……」

 うーん、と椅子に座って頬杖をつく。減らないかな、この山。燃やして証拠隠滅を図ろうか。でもそれをしたら一番困るのはオレだし。

「失礼します、十代目」

 ぼんやりしていると、獄寺くんが眠気覚ましのコーヒーを持ってきてくれていた。礼を言い、そうだと閃く。獄寺くんに聞いてみたらいいんだ。この書類を作成しているのは基本的に彼なんだし。

「あのさ、いつもよりこれ多くない?」

 紙束を指し、獄寺くんに聞いてみた。すると獄寺くんは知らなかったのですか? と目を見開く。

「リボーンさんが以前『あまりツナばかりに負担を掛けるわけにもいかないだろう』と仰っていたんです。十代目直々にサインをしていただかなくても構わないものは、リボーンさんがサインをしていたんですよ」

 リボーンは獄寺くんより立場は上である。性格には難ありだが、腕は確かなのだから。誰よりも信頼出来る。
 何かあった時の指揮権はリボーンに託すと、死炎付きでサインをした。事実上、ボンゴレのナンバー2と言っても可笑しくない。だからこそ、こういう芸当が出来るのだ。

「嘘……」

 オレはその事実に驚愕した。面倒を増やしているのはリボーンも同じだろ、と喉まで文句が出かかったが、口にする気にはなれない。

「本当ですよ」

 では、何かあったら呼んでくださいね。そう残して獄寺くんは去っていった。
 何だろう、胸がホワホワする。誕生日の時と一緒だ。

「それに、リボーンがいないと何か物足りない」

 この気持ちは何なのだろうか。未だこの感情に名前を付ける事が出来ない。
 獄寺くんたちに向ける感情でも、ランボやイーピンに向ける感情でもない。母さんに向けるものとも違う。京子ちゃんに向けるものとは……。
 携帯の着信音が静かな部屋に鳴り響いた。

「うわぁ!!」

 余りにも考え込んでいたため、超直感が働かなかったようだ。大げさなくらい飛び上がり、携帯を取る。
 
「リボーン?」

 画面に表示されている相手はリボーン。タイミングが良すぎだろう、とため息を吐く。
ほんの一瞬だけ不安がよぎるが、生憎超直感は働いていない。それにリボーンが簡単にくたばる様な奴じゃないことはオレが一番よく知っている。

「どうしたの?」

 私用だろう。そう思い、通話ボタンを押した。

「ツナ! ツーーーナぁぁぁ!!!」
 
 私用も私用。なんなんだこいつ。

「だから、どうしたんだって聞いてるんだよ!!」
 
 半ばキレ気味に口をはさむ。オレが声を上げるまでひたすら名前を呼んでいたのだ。背筋に鳥肌が立った。

「ああ、悪いな。ついつい、ツナの声を聴けて舞い上がってしまったようだ」

 ん? 声の調子が仕事モードだ。直感が外れたのだろうか?

「で、用事は?」
「ああ、今日はホワイトデーだろ? だから電話したんだ」

 ああ、その事か。くだらないことを永遠と囁かれるだけなら勘弁してもらいたい。チラリと視線を書類にやる。

「ツナの心がこもった、禁断の果実よりも魅惑的で誰もが魅了され、喉から手が出るほど欲する手作りチョコのお返しを出来ないことが、こんなにも苦しい。そう、まるでひとり霧深い闇にいるような、あるいは深海に潜っているような心地だ。チョコを食べている時はそれはもう天使が見えたほどだったのに。天から一筋の光が降り注ぎ天界へと誘われるような……」
「あーはいはい」

 手のひらをひらひらとさせて、適当に遮る。耳元で囁かれるそれは、いつもより気持ち悪さが100倍増し。勘弁してもらいたい。

「そこでだ。オレが出張から帰ったらふたりでレストランに行かないか?」
「は?」
「本当は今日予約をしていたんだぞ。だが、ボス直々の出張命令だったからな。キャンセルの電話を入れて、別の店を予約したんだ」

 予想していたより、普通なお返し。てっきり真っ赤なリボンを体に巻きつけて「プレゼントはオレだぞ☆」とか言いながら、にじり寄ってくるのかと思っていたのだが。拍子抜けしてしまった。こんなことなら出張なんか出さなかったらよかった。そうしたらもっと仕事が楽に進んで、リボーンとも。……え? リボーンとって、何なんだ?

「夜景がきれいなレストランだ。どうだ? 行くだろう?」
「……ん。行く」

 リボーンに会いたい。そう思う自分がいる。

「……はやくかえってきてよ」

 どうやら無意識のうちに呟いていたようで、リボーンが「は?」と声を漏らした。

「ツナ、今なんて言った?」
「へ?」

 自覚した途端、顔に熱が集まった。うわぁぁぁ数秒前のオレ爆発しろ!! 有り得ない有り得ない!!!

「出張が終わったら速攻で帰る。だからそれまで待っていてくれ」
「あああああ忘れてくれ、頼むからぁぁぁぁ!!!」

 失態だ、もう嫌だ。日本に帰る。いや、今帰ったらリボーンがいる。そうだ、逃亡しよう。誰もいないところで新しい人生を始めるんだ。ナイスアイディア、オレ!
 電話を切って窓に足を掛けた。
 オレの叫びに気づいた獄寺くんたちがドアをぶち壊して部屋に入って来るまであと少し。



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今回、リボーンがツナの答えを出す邪魔をしましたね。ビックリだ。ホワイトデーですし、少しは甘くなっていると良いのですが……。


 

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