novel
□本からはじまる物語
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「沢田君、ありがとう。カウンター代わるから、そこにある本を書架に戻してきてくれる? そしたら今日は上がっていいから」
「あ、分かりました。すみませんが、このメモ、多分いつもの真っ黒い男性のだと思うので返しておいてもらえますか?」
先輩にメモを渡す。これ、あの人にとって大事な物だったら困るもんね。
「そうなの?」
まじまじとメモを見て、おや、という表情を浮かべた。
「これ、沢田君当てだと思うわよ?」
「へ?」
「あなた、良く来る銀髪のお友達に十代目って呼ばれてるでしょう? これはイタリア語で十代目ってことなの」
そう言いながらメモの「decimo」と書かれた所を指さす。
「要するに、“十代目へ、黒より”ってことね」
「手紙ってことですか……?」
そうみたい、と笑う。
「この一文は?」
悪いことだったらどうしよう。いつも作業が遅いって苦情とか、本が似合わないとか、真面目に仕事しろとか。
「ごめんなさい。そこまでは分からないの」
「そうですか」
ちょっとホッとした。作業の遅さは自覚してるけど直接言われたらさすがに堪えるもんね。
「じゃ、本を戻してきますね」
手紙を小さく折りたたんで、エプロンのポケットにねじ込み、仕事に戻る。
幸い、カートに並べられているのはそこまで多くは無かった。
重い本はリボーンさんが借りていた本9冊と、誰かが借りていた5冊、後はハードカバーと文庫本、専門書が3、40冊程。
ガラガラとカートを押していく。静かな空間に音が響いて何だか申し訳ない気持ちになる。 近くの棚まで行って、本を手に取った。
ん? 誰かに見られてるような……。周囲を見回す。あれ、可笑しい、誰もいない。
本を探していたのかな、と思い仕事を再開する。この、時代が混ざったような独特の雰囲気とか紙の香りが心地いい。
数回作業を繰り返したら、カートの中は空になった。
カウンターに一言声をかけて、奥に引っ込んだ。ロッカーの荷物をサッと取ってエプロンをその中に突っこむ。
駐輪場に停めてあるオレンジの自転車に跨って帰路についた。
「そういえば」
手紙の事を思い出したのは夜、ベッドに入る前の事だった。
ネットの翻訳サイトのお世話になって日本語訳をしてみた。
「えっと“いつも君のそばにいる”?」
オレに対して、の言葉何だよな? ゾクゾクと背筋に何かが這うような感じがした。
「そ、そうだ、本! アリスが何処にいても、その先々でウサギが現れたってことは、いつも近くにいたってことだよな」
うん、きっとそうだ。
「だから、これはきっとウサギがアリスに向けて思ってたことを書いたんだ」
無理やりそう解釈して布団に潜ることにした。
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先日図書館に行ったときにフッと思いついたネタです。ツナのテストが漫画とかで出てくるときは大体は数学だった様な気がして、それなら国語とか得意なんじゃ、と思い至った末、ツナを司書にしました。直前まで司書をリボにして、遠くから見てるツナが思い切って告白、みたいな話にしようかどうしようかと悩んだ結果、こうなりました。
にしても、リボとツナの絡み少ないなぁ。
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