novel
□天使舞い降りて
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「最初の問題は……‘クリスマスの夜サンタはこっそり入ってきます。どこだ?’だって」
「煙突、の事だろうな」
「だね」
中央の広場はイルミネーション兼ステージとなっている。そこの一角だろうと当りを付けた二人は早速確かめに向かう。
「うわぁ、すっごく綺麗だね!」
「そうだな」
まさに光の洪水だ。緑と白のライトで作られた四つ葉のクローバーに、光のアーチ、長方形をウエディングケーキのように重ね、頂上には星が煌めいているものなど様々。
「ツナ、見つけたぞ」
リボーンが指さす方に小さな家が立体で作られていた。ちゃんと煙突もある。
近くには運営スタッフもいるため間違いはないだろう。
「じゃ、オレ、スタンプ貰ってくるね!」
タッと駆けだしたツナをぼんやりと見やるリボーンの顔は複雑な物だった。
笑顔でスタッフと言葉を交わすツナを見ていられなくて、その光景に背を向けイルミネーションを眺める。
「お待たせ、リボーン。……リボーン?」
ツナに気付かずぼんやりとしていたリボーンはボルサリーノを深く被り「何でもない」とそっけなく返した。
(やっぱりそうとう怒ってるよな……。さっきのペアを決めるときだって京子ちゃんが番号言ってるときオレの方一瞬睨んでたし)
「次は何だ」
泣きそうになっていたツナはコートの袖で目を乱暴にこすって無理やり笑顔を作った。
「‘朝に食べる白い物。なーんだ’だってさ」
「朝に食べる白い物……?」
その場でブツブツと朝、白、クリスマス……と連想を始めるリボーン。
「わかったぞ」
「え、なに?」
「ミルク粥だ。サンタの故郷と言われているフィンランドの話にも出てくる料理なんだぞ。確か、クリスマスの朝に食べるものだったはずだ」
地図を取り出して出店の場所を探す。どうやら入り口付近にあるらしい。
人ごみを掻き分けて進み、接客をしていたおばさんに二つ注文してスタンプを貰った。
「へぇ、初めて食べた。甘くておいしいし、あったまるね」
はふはふと口に運び感想を述べるツナ。
「んん?」
がりっと何か固い物を噛んで首を傾げる。
「アーモンド?」
「当りだったのか」
同じものを食べているがどうやら入っている物とそうでないものがあるらしい。
「当り?」
「ミルク粥にアーモンドが入っていたものは良い一年になると言われているそうだ」
「そうなんだ」
暫く無言だったが不意にツナが顔を上空に向けてポツリと呟いた。
「じゃあ、きっとリボーンのお陰なんだろうな」
くす、と笑ったツナに、不意打ちを食らったリボーンは顔を真っ赤に染め上げた。
当のツナは再びミルク粥が入ったカップに視線を落とす。ふぅふぅと息を吹きつけながら一口。
それを横目で眺めつつ、リボーンもまた口に運ぶのだった。
「さて、次の問題は‘辛いお菓子はお好き?’これって、ジンジャークッキーの事だよね」
「さっきの広場にあった本部のテントで売ってたぞ」
「本当? じゃ、行こう!」
再び広場にやって来た二人は難なくスタンプを押してもらう。
「あと2問だよ、早いね」
「そうだな」
「次は‘神の御子が生まれ、星は輝き天使舞う’なんだこれ」
「歌の歌詞だと思うぞ。『きよしこの夜』だろうな」
「でも、それが流れてる所なんて無いよね?」
なかなか思いつかない二人。歌を歌い、歌詞からヒントを得ようとするリボーンだが、なかなか答えにたどり着けない。その時急にツナが声を上げた。
「オレ、分かったかも」
こっち、と手を引いて人ごみを縫うように走る。
たどり着いた場所は。
「噴水?」
此処の噴水は階段を降りたところに作られている。階段の正面には石の壁があり、半円のような形状をしている。
噴水と言っても、あまり使われておらず水が薄く張った池のようになっているが。
「もしかして、あれがそうか?」
石の壁には何か文字と絵が彫られている。
「もしかして、違う?」
星と天使と赤子が描かれているそれ。英語で確かに歌詞の一部が引用されていた。その近くにはスタッフはおらず、スタンプ台だけがひっそりと置かれている。
「ツナ、よくやったな!」
リボーンに褒められて嬉しそうに笑うツナ。
「よし、次で最後だ!」
「うん! えっと‘ベツレヘムの星の許に’何その舌噛むような名前」
「ツナ、こっちだ」
今度はツナが手を引かれる。階段を駆け上がり、喧騒の中へ入っていく。
(なんか、気まずかったのが嘘みたいだ。楽しい)
繋いだ手から伝わってくるリボーンの温度。子供特有の高温で手袋越でも分かる。
何だか笑い出したい気分だった。
端から端まで走ってきた二人はあるところで立ち止まる。
「これって、クリスマスツリーだよね」
大きなモミの木はライトやオーナメントを付けて、いつもと違う雰囲気を纏っている。
「ツリーに飾ってある星の名前、知ってるか?」
「名前なんてあるの?」
「ああ。ベツレヘムの星って言うんだぞ」
ツリーの先にある黄金に輝く星を見上げる。
「このツリーには伝説があるんだってな」
「うん。この間京子ちゃんたちから聞いた。ツリーの下でキスをしたカップルは永遠に離れることは無いってやつ」
顔をリンゴのように赤くしながらもごもごと言った。
「それは半分正解で半分間違ってるんだぞ」
「え、うそ!」
「正しくは雪が降っているクリスマスの夜に口づけを交わした恋人たちは神の祝福を得る、だそうだ。因みに結婚率は100パーセントだったぞ」
「え、お前調べたのかよ」
「ああ、お前を誘った日にな」
予報では雪マークが出ていたしツナを誘って、と算段していたリボーンは、ツナの言葉により地の底まで落ちて行った。
その時ツナの心を読んでしまったリボーンは追い打ちを掛けられる様に沈んでいったのだ。
「‘京子ちゃんからあんな話を聞いた後で誘われたんだ。期待していいってこと!?’」
ツナが屋上で話を聞いた時に思ったことを一字一句違わずに言葉にしたリボーンにうっと詰まる。
「‘京子ちゃんは1番かぁ。オレも1番だったら良いのになぁ’」
これはさっきのペアを決める時の言葉。
「ご、ごめん……」
しょんぼりと視線を落とす。
「でも、オレは知ってるぞ」
京子への思いは今は憧れに変わっていることを。
「なんで……。読心術?」
「いや、ツナのことだからだ。誰よりも近くにいてお前を見てきたんだぞ、そのくらいのことは分かる」
ツナ以外には決して見せない優しく穏やかな笑みを浮かべて、頬に手を添える。
「リボーン……。ごめんね」
「オレの方こそ、大人げなかった。悪かった」
「リボーンはまだまだ子供だろー? 大人げないって何だよ」
リボーンの手に自身の手を重ねて笑う。
その時、ふわりと白いものが宙を舞った。
「あ、雪だよ! リボーン!!」
リボーンから離れて白いコートの裾を広げて嬉しそうにはしゃぐ。
「まるで天使、だな」
雪の中舞うツナはなぜだかどこか儚くて、捕まえていないと消えてしまいそうだった。
「もう、何言ってんだよ!」
照れるツナの手を取って抱き締める。
まだまだ身長が足らないため、少し恰好がつかないが構うものかと引き寄せた。
「リボーン……」
「ツナ、愛してる」
そして二人の唇は聖夜の中、静かに重なった。
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五月様よりクリスマスリクエストでした。
原作寄りでリボーンが成長、ギャグチックな甘い話、というリクエストでしたが、全然違うような気がします(泣)原作寄りってどうしたらいいんだろう……。シリアス路線をひたすら突っ走ってますね。本当にごめんなさい! 勿論返品可ですので!
因みに作中で出てくる「冬のまつり」は実際、地元にあります。一緒に行ったカップルは高確率で別れるそうですが……。そこから生まれた話だったりします。
五月様以外のお持ち帰りは厳禁です! リクエストありがとうございました。
次のページはおまけです。よろしければどうぞ!
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