novel

□オータムグローリーより、愛を込めて
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「あのさ。……獄寺くんは胸が痛くなることってある?」
「え、なにか御病気だったのですか!?」

 慌てて携帯を取り出し、今にも救急車を呼ぼうとする獄寺を必死に止めるツナ。
 携帯を取り上げ、画面を見るとすでに数字は押されてあった。間一髪だったようだ。その数字を消して携帯を返した。
 ツナは言葉足らずだったことを詫びて、説明をする。

「誰かの事を思って苦しくなったり、頭がごちゃごちゃになったり、鼓動が早くなることってある?」
「……ありますよ」

 その一言に目を見開くツナに苦笑する獄寺。

「その方の事を思うと苦しくて、辛くて、訳が分からなくなって泣きたくなってくるんです」
「獄寺くんでも?」

 優しく笑む獄寺。

「はい。勿論眠れない夜もありますよ」

 今ではめっきり減りましたが、と小さく付け足す。それに敏感に反応したツナが食いついた。

「何で?」
「気づいたからですよ」

 きょとんとするツナ。

「それが分かった時はすっきりとした気分でしたよ。すとんと胸に落ちてきたんです」
「それって……?」

 言っていいのか一瞬考えたが、意を決し言葉を発する。

「好きって気持ちですよ」
「す……き?」

 愛おしいものを見るような目でじっとツナの事を見つめる。

「その人の事を思うと苦しいのに、会いたいと思いませんか?」

 思い当たる節があるのか顔を赤くするツナ。

「その人に会う前や会っている時、妙に緊張しませんか?」
「ぁ……」

 さらに笑みを深くした。

「それが、好きと言う気持ちですよ」

 先ほどの笑みとは裏腹に泣きそうな顔を浮かべる。

「獄寺くん?」
「すみません。何でもないです」

 気にしないでくれと笑う獄寺は、誰がどう見ても大丈夫そうではなかった。

「で、でも」
「大丈夫です」

 お待たせしました、とタイミングがいいのか悪いのか、店員が料理を運んできた。
 うやむやなまま、話は流れてしまったがその後も獄寺は浮かない顔をしていた。

 ご飯も終わり、この後をどうするか予定を立てる。

「獄寺くん、無理しなくていいんだよ?」
「いえ。お供させてください」

 体調が優れないというわけではないという事を察してはいても、どうすればいいのか分からない。
 
「わ、わかったよ」

 CDショップや、服などを見て回る。久々に町に出たのでついついたくさん買ってしまう。
 
「ごめんね、荷物持ってもらって」
「いえいえいえ、お気になさらず!」

 ここはいつも通りなんだな、となぜか嬉しくなる。
 外に出ている序に夕食済ましてから帰ることにした。
 さんざん悩んだ末に決めたには、和食の店。
 ここは個人で経営していて良く食べに来るところなのだ。日替わりのメニューは飽きがこない。
 ご飯も食べて終わった頃にはすっかりと日も落ちていた。

「お送りしますね」
「え、体調大丈夫なの?」

 今まで歩き回っているのに今更なような気もしないでもないが。

「はい、それはもう吹っ切れましたから!!」

 吹っ切れた、とはどういう事なんだろうか。
 にっこりと笑う彼から嘘をついている様子は見受けられない。

「じゃあ、お願いしてもいいかな」

 荷物もたくさんあって、とても一人では持って帰れそうにない。その申し出は正直有り難かった。
 話しながら歩くといつもの道が短く感じる。
 
「あ、もう着いちゃったね」

 キーホルダーの付いた部屋のカギを取り出し、部屋を開けるとむあっとした空気が溢れ出してくる。

「ありがとう、獄寺くん。よかったらお茶でも飲んで行ってよ」
 
 玄関の明かりを点けて靴を脱ぐ。

「それでは、お言葉に甘えて」

 にこりと笑い承諾した獄寺に、どうぞ上がってと声をかけるツナ。
 荷物はリビングに置いてあるローテーブルの横に置いてもらった。どさりという音についつい買いこみすぎたかな、と少し後悔する。

「適当な所に座ってて」

 そういうとソファーに座った。心なしかそわそわしている。
 何回も入ったことある筈なのにな、と疑問に思うツナだが特に言及はしなかった。

「麦茶でいい?」
「あ、はい。大丈夫です」

 グラスに氷を入れて麦茶を注ぐとカランと涼しい音が鳴る。
 お盆にそれを乗せて獄寺の許に運んだ。

「どうぞ」
「いただきます」




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