novel
□オータムグローリーより、愛を込めて
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適当な服を着て外に出る。待ち合わせ場所は並盛駅前の時計台だ。今日も外に出ただけで溶けそうな暑さだ。それでも少しすると多少は慣れてくる。それまでの我慢だ。
ツナが住んでいるマンションからは徒歩でもそれ程時間はかからないが、余裕を持って少し早めに家を出た。
あまりの快晴に気分が良くなり、鼻歌を歌いながらゆっくりと歩を進める。
待ち合わせ場所には既に獄寺が立っていた。人ごみの中でもよくわかるシルバーの髪と目立つ容姿のお陰で遠目でもよくわかる。
「あ、十代目ぇぇぇ!!」
ぶんぶんと腕を振り、ツナにアピールをするが、周囲の目が冷ややかなことに本人は気づいているのかいないのか……。
曖昧に笑い、獄寺の元に駆けて行く。
「もう、恥ずかしいでしょ」
微かに眉を上げて口調を強くして言うと、しょぼんと俯きすみませんと謝った。
犬なら尻尾は垂れ下がり、耳はこれでもかと言うほどに萎れているに違いないと心の内で思うツナだが口には出さない。
その項垂れっぷりに何故だかこちらが罪悪感を感じてしまう。
「いいから、顔上げてよ」
「怒ってませんか?」
おずおずと顔を上げて言う獄寺。
「うん、怒ってないよ」
十代目、と叫びながら抱き着いてくる。こういう時にどうすればいいのか分からず、ぼうっと突っ立ってしまう。抱きしめ返せばいいのだろうか……。
「で、今日はどうするの?」
抱き着かれたまま問うとパッと離れて、行先を告げた。
「はい、昼食にイタリアンでもと思ってお誘いしたんです」
雑誌を広げてその店が紹介されているページを示す。写真に使われていたのはトマトソースを使ったパスタだ。
他にも、ガーリックトーストやアンティパストの種類が豊富らしい。思わず涎が出る。
「すごく美味しそう!! どこにあるの?」
小さく記載されていた地図を指さす。
「ここから近いみたいなんです」
獄寺の案内でその店に行くことになった。
移動中は他愛もない話で盛り上がる。学生時代の事を懐かしく思い語り合っている自分がなんだか不思議だ。まるで第三者の事を話しているような感覚。
店内はシックな雰囲気で女性が多かった。BGMにはクラシックが流れているが残念ながらその方面には明るくないため良くわからない。
通された席は日当たりが良く中庭が良く見える窓際だった。
噴水の周囲にテーブルが置かれていることから外でも食べることが出来るのだろう。見ているだけでも涼しげで、爽やかな気持ちになる。
店員が持って来たメニューの中に「本日のランチ」と題されたものを見つけ、それを手に取る。
「今日はサーモンとアスパラのクリームパスタか、トマトソースパスタか……。十代目はどうします?」
「どっちも美味しそうだけど、こっちのメニューに載ってあるリゾットも捨てがたくて」
トマトソースをベースにアサリやエビ、イカといった魚介類がふんだんに使用されたそれはとても食欲を誘う。どうやらセットでサラダとスープかドリンク、そしてケーキが選べるらしい。
「ん……。リゾットにするよ」
「では、オレはクリームパスタにしますね」
ベルを鳴らすと暫くしてから店員がやってきた。
注文をすると少し時間がかかるとのこと。お昼時だから混んできたのだろう。先程より数段慌ただしげに店員が動いていた。
しかしそれでも接客は丁寧で、客にも苛立った様子は見受けられない。
この後、特に用事の無いツナと獄寺は大丈夫だと告げて待つことにした。
店員が完全に下がってから獄寺が口を開く。
「それで、最近何に悩んでおられたのですか?」
ご飯ではなく、こっちが本当の誘いだした理由か、と理解する。
頬を掻き誤魔化してみる。
「話されたくないのなら、それでもかまいません。でも、そのご様子では十分に睡眠を取られていないのでしょう?」
うぐ、と言葉に詰まる。普段通りにしていたつもりだが、どうやら全て見抜かれていたらしい。
(相談してみようか。でも何て?)
しかし連日の睡眠不足に加えて、仕事も忙しい時期に突入しツナの体はボロボロだったのだ。仕事をしていてもどこか上の空で、顔色は優れない。
それを見かねた獄寺がこうして時間を作ってくれたのだ。
恐る恐る声を出す。
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