novel

□虹のあるところ
2ページ/2ページ



タオルが外され、眩しさに目が覚める。椅子を元に戻し、髪をタオルで一纏めにされた。


「お目覚めですか」


くす、と笑われてしまった。一気に恥ずかしくなる。


「ええっと、あの、その……。あまりにも気持ちがよくて、つい」


すると、彼はふわりと笑い大丈夫ですと言った。

「よくあることなんですよ」


その様子は本当に気にしていないようだった。そして再び移動し、カット用の椅子に座る。


「少し待っていて下さいね」


そう言って彼は何処かに向かった。暫くぼぅっとしていると、上から下まで真っ黒な服の男がやって来た。


「俺が今日担当するリボーンだ」


先程の男と違い、高圧的な態度をするこの男。名前からするに、日本人では無いようだ。


「よ、宜しくお願いします……」


来た時のおどおど、びくびくとは違う意味で震える。


「で、今日はどうするんだ」
「な、何がでしょう!!」


なぜ彼方がタメ口で此方が敬語なのだろうか。客はオレなのに……。
まるでてるてる坊主の様な服を着せられた後、髪に巻いていたとタオルを外される。湿った髪を優しく透かれた。


「髪に決まってるだろうが」
「そそそ、そうですよね!!」


といっても特に要望は無い。取り敢えず前髪を切って欲しい旨を伝えた。

「ついでに後ろもバッサリいかねぇか?」


暫く切ってなかった為、前髪は余裕で目にかかるし、後ろは何年も前から伸ばしている。
母親譲りの童顔をどうにか年相応に見せるための足掻きだったのだが、効果はイマイチのようだった。むしろ女に見えるらしい。なんとも虚しいことだ。ならいっそのこと切った方がこの季節は涼しいだろう。いい加減長いのも鬱陶しいし、暑い。


「お、お任せします」


その言葉を待っていたと言わんばかりに長かった髪に鋏が入る。シャキシャキと小気味が良い音が聞こえてきた。


「お前、職業は何してんだ」
「えっと……その、フリーターです?」
「なんで疑問なんだ」


なんで、と言われても。


「まぁ良い。年は幾つだ」
「……24です」
「くっ、くくくく……」


お腹を抱えて笑われた。どうでもいいけど、お前鋏危ないぞ。周りの人は意外そうな顔をして此方をみている。なんなんだ。


「わ、笑うなよ!!」
「そのナリでかよっ」
「煩いな!! 俺だって気にしてるんだよ!」


カット用クロスの下はパーカーにジーンズというラフな格好だ。それが幼く見られることに拍車をかけているのも……まぁ自覚はしている。

リボーンはひとしきり笑った後、ふぅと呼吸を調えた。


「それにしてもお前、敬語似合わないな。タメ口でいいぞ」


いきなりそんなことを言われても。確かにさっきみたいな威圧感はナリを潜めてるみたいだけど、目が怖い。タメ口になったんだって頭に血が昇ったからだ。

鏡の中で目が合った。リボーンの目元が柔らかく細められた。頬に熱が集まり、鼓動が速くなる。つい、と目を逸らしてしまった。

暫く無言だったが不意にリボーンが口を開いた。

「お前、ここへは誰かに紹介されてきたのか?」


ぱちくりと目を見開く。なぜ分かった。


「どうしてそれを?」
「入ってきた時から明らかに挙動不審だったからな。こういう場所になれてないってことは一目瞭然だ」


成る程。と言うか初めから見てたのか。気付かなかった。こんな全身真っ黒ならさすがに気付くと思うのだが。


「えと、友達に紹介されて」
「そうか。……ありがたいな」


また優しく笑んだ。茹で蛸になるから勘弁して欲しい。俯きたいのに髪を切ってもらっている以上、下を向くと歪んでしまい迷惑だ。あーもう!! ここの美容師は、なんでこんなにイケメンやら美女ばっかりなんだよ!!


「前髪切るから目ぇ閉じとけ」


その言葉にハッとなる。言われるがままに目を閉じた。鋏の音とぱらりと落ちていく髪の音がする。


「もう良いぞ」


スッと目を開けると、視界がクリアーになっていた。やっぱり定期的に切らなきゃいけないのか。

「流すからこっちにこい」

セット椅子が下げられ、ようやく地に足が着く。リボーンは身長が高いため結構椅子が上げられていたのだ。

先程のシャンプー台に座り、軽く濯がれる。シャンプーをされるわけではないので短時間で終了した。

またセット椅子に戻り髪に何かつけられる。


「これは洗い流さないトリートメントだ」


そんなのが有るのか。さすが美容室、床屋とは違うなぁ。
まんべんなく髪にトリートメントがつけられ、ブローが始まった。生暖かくて心地がいい。欠伸を我慢して顔がくしゃりとなった。


「どうだ?」


手鏡を渡され、後ろ髪の長さを問われた。手鏡を大きな鏡と会わせ鏡にして見る。


「大丈夫、だよ」


敬語を使う度に指摘があったためなんとか砕けた口調で話す。


「すいてくれたんだね。凄く軽くなった。ありがとう」


にこりと笑ってお礼を言うと顔を逸らされた。耳が赤いのは気のせいだろうか?

クロスやらを全て外され会計をする。思ったよりも安かった。サービスらしく、外まで送ってくれた。


「お前、また三ヶ月以内こいよ」


後ろから声をかけられて振り向いた。


「なんで?」
「放置するとまた髪が無造作に跳ねまくるぞ」
「うっ……分かった」


今の俺の髪はトリートメントのお陰かカットのお陰か珍しく髪が落ち着いている。といってもやはり多少は跳ねているのだが。


「それでは、またのお越しを」


最後だけ店員としての口調は何だかズルい。取り敢えず紹介してくれた獄寺君にはお礼を言おうと思った。







------

どうやらリボーンはツナに惚れた模様。多分続きます。ツナの本当の職業はちゃんと決めてるので、書きたい。

simpatia(スィンパティア):好感



.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ