novel
□さぁ、勝ち目の無い勝負をしましょう
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「ツーナ」
「リボーン」
執務室に備え付けられている、上品で落ち着いた色合いのソファーに腰かけ、いちゃいちゃとじゃれ合う二人。
リボーンの膝の上に横向きに座り、ツナは幸せそうに甘える。机の上には紅茶とクッキーが置かれていた。
「失礼します、十代目」
扉を叩く音が三回。どうぞ、と声をかけると書類を抱えて獄寺が入室した。
その瞬間にリボーンがムッとした表情を浮かべる。
「ツナ、何でこいつなんか入れたんだ」
「だって、仕事のことだから拒んでも後でまた来るでしょ? だったら早いうちに片付けておいたら沢山リボーンといられるもん」
それを聞くと満足そうに口角を吊り上げた。
耳元で「後で楽しいコト、しような」と囁くと茹蛸のように顔が真っ赤に染まり、遠慮がちにひとつ頷く。
「つー訳だから、早いところ要件を言って去れ」
嘗ては漆黒の悪魔だ死神だと謳われたが、今やその面影が無い。
この空間を敵対ファミリーや、リボーンに恨みを抱いている者たちが見たらきっといろいろと諦めるに違いない。生温かい笑みをして、去っていくだろう。
さらりとツナの髪を梳く。
「は、はい!」
書類を執務机の上に乗せる。珍しく今日分の書類は全て片付いており、決済済みの山が机の片隅に連なっていた。
追加を置く代わりに、それを引き取る。
「すみませんが何枚か追加です。それと、コルヴォファミリーが最近不穏な動きをしているようですが、如何致しましょう?」
さっと仕事モードに切り替えたツナは記憶の中からそのファミリーの情報を導き出す。
確か、表面上は慈善活動に精を出しており、少し前からボンゴレと同盟を組みたいと要請があったはずだ。
しかし裏の顔とは酷い物で、虎視眈々とマフィア界の頂点を狙っている。
地元の住民からは、裕福層には支持されているらしいのだが、その他の人たちからは煙たがられている組織のようだ。
しかも金の収入源は、主に人身売買や麻薬の取引、密輸を始めとした悪逆非道のマフィアというのが諜報員が調べた結果である。
「不穏な動きって、具体的には?」
「はい。人身売買や麻薬の取引の活発化、それによって得た資金での武器の調達及び同盟ファミリーの増加などが挙げられます」
眉間に深いしわを寄せて考え込むリボーンとツナ。
「……ツナはこれをどう見る」
「どう考えてもうちに喧嘩を売るつもりでしょ」
重いため息と共に吐かれた言葉に満足したように頷くリボーン。
「合格だぞ」
頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じて顔を綻ばせた。
「えへへ」
それに内心嫉妬をしつつ、涼しい顔をして眺める獄寺。
「ツナ、いるかー?」
またも来客。ノックもなしに入ってきたのは山本だった。
既に日常と化した光景にツナはこっそりと苦笑いを溢す。
「どうしたの、山本」
だが、いくら親友とはいえ、これ以上この部屋に人が溜まったのではせっかくのリボーンとの時間が無くなってしまう。
とっとと帰れという意味も込めて敢えて普段の声よりトーンを下げて言ったツナだが、気づいているのかいないのか、さらりと無視をした山本。
「コルヴォファミリーの追加情報なのな!」
「?」
嫌な予感しかしないツナとリボーンと獄寺。
「もう、ほんと余計なことばっかりして……ただで済むと思うなよ」
俯き加減でぼそぼそと呪詛を吐くツナに、全くだと底冷えする笑みを浮かべるリボーンに戦慄を覚える。
あの頃の純粋なツナが懐かしい。まあ、ある意味では今でも純粋と言えば純粋なのだろうが。
「お、おい。ツナ……?」
「ああ、ごめんね。続けて?」
笑ってはいるがそれが逆に恐ろしいという事に気が付いているのだろうか。
咳払いをひとつして口を開いた。
「……で、そのファミリーがボンゴレの同盟ファミリーに喧嘩を売ったらしいのな」
「……へぇ」
「いい度胸じゃねぇか」
背筋に冷たい汗が流れる。リボーンに至っては懐に忍ばせている銃を取りで出して加勢(という名の八つ当たり)をする気満々だ。
「リボーン、行っちゃうの?」
きゅっと抱き着き今にも泣きそうな声で問うと、リボーンも手を回した。
「そんな声出すなよ、ツナ」
「だって行ってほしくないんだもん。それに、大丈夫だよ」
骸、と誰もいない空間に声をかけると、クフフと独特の笑いがどこからともなく聞こえてくる。
次第にさらさらと幻覚が解けていき、やがて一つの形を成した。
「おま、いつからいたんだよ!」
「山本武が入った時に一緒に入ってきました」
なぜ堂々と入って来ないんだと思わずにはいられない山本と獄寺。
ツナは日ごろからナチュラルにストーキングをされているので大して気にした様子は無い。(そしてそれに制裁を下すのはリボーンである)
「それで綱吉君は何がお望みですか」
「同盟ファミリーをお前の幻術で守れ」
十年前に比べたらずっと丸くなった骸。これが惚れた弱みというものだろう。ここにいる者は大なり小なりでツナに好感を抱いている者ばかりであった。
想い人にお願いをされると断れないのが、悲しいかなこの世の理だ。
「分かりました。綱吉君のお心を曇らす原因を排除してきます」
「その言い方だと大元から絶ちそうな感じだから先に言っておくからな。敵味方関係なく、誰も殺すことなくコルヴォファミリーを撤退させろ」
お前の幻覚ならばそれが出来るだろう、と言葉の裏に潜ませて。
瞳には強い意志を宿らせて。
「分かっていますよ」
骸は目を伏せてふっと笑った。昔ならばこの機に乗じてマフィアの殲滅を実行していただろう。本当に丸くなったものだ。
骸を中心に霧が発生する。インディゴのそれが晴れたかと思うと、跡形もなく彼は消え去っていた。
「な、大丈夫だろう?」
「ああ、そうだな」
また二人の世界に戻っていった。
ちゅっと可愛らしいリップ音をたて、見つめ合っている。
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