novel

□クリームいっぱいの花束を
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また、来てしまった。
メルヘンチックなアーチを前にひとり佇む。正直、リボーンとは会いたくない。だって、変に緊張するのだ。
予約の電話を入れたのは昨日のこと。次の日、という急な予約だったのにもかかわらず、相手の人(恐らく前回カウンターにいた人)は快諾してくれた。
電話機越しでも伝わってくる相手の笑顔に数分間にやけてしまったのも無理は無いだろう。

覚悟を決めて歩を進める。
今回は誰ともすれ違わなかった。
前回と同じようにカウンターで名乗る。そこに立っていたのはシャンプーをしてくれた人だった。物腰や言動が柔らかく非常に好感が高い。
ネームプレートに視線をやると「風」と書かれていた。

「かぜ?」

日本人には珍しいその名前。特別な読み方でもするのだろうか。そう考えていたため、無意識のうちに呟いていた。

「ああ、違うのです。風、と書いてフォンと読むのですよ」

件の風さんはにっこりと笑んでいる。
またしても失礼なことを仕出かしてしまったと思い慌てて謝罪をするツナ。

「すいません! あの、失礼ですが中国方面の方なんですか?」
「はい。日本に留学した時に好きになりまして、そのままこっちに住むことにしたのです」

 流暢な日本語を操る彼はとても外国人だとは思えなかった。そこから努力家ということが窺える。

「それに、ここの美容室で働いている者は外国の方が多いのです」

 前回受付にいた人はアリアさんと言うらしい。その人はイタリア出身なのだそうだ。

「そうそう、リボーンもイタリア出身ですよ」

 イタリア人多いな、と心の中で呟いたツナ。
 他愛の無い会話をしていたら急に風が顔色を変えた。といってもほんの一瞬の事だったが。
 それに疑問を持ったツナが声をかけようとしたが、その前に風により遮られてしまった。

「余計なことを話してしまいましたね。すみませんでした。本日の担当希望はありますか?」
「え……」

 リボーンに来いと言われたのだから彼を指名するのが得策だろう。しかしそれでは相手の思う壺なようで癪だ。

「リボーン以外でお願いしま「オレでいいよな?」」

 どこからかやってきたリボーンがツナの頭の上に手を載せた。力を込めているのか痛いし重い。

「ちょ、何すんだよ!?」
「来いっつったのはオレだぞ。それなのにオレを指名しないとはどういう了見だ?」
「ひぃ! すみませんっ!」

 してやったりと笑うリボーンに、苦笑を溢す風。

「じゃあ、オレにするよな?」
「は、い」

 そう答える以外にツナに選択肢は無かった。



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