novel

□吸血の夜(仮)
1ページ/21ページ




「お前まだ“血の契り”してないのかよ」
「そんなだからいつまでたってもダメダメなんだよ、このダメツナぁ!」
 
 今日も今日とてダメライフ。クラスの奴らからは罵詈雑言を浴びせられる。いつものことだが正直そろそろ勘弁してほしい。

「というわけで、ダメツナちゃん、掃除ひとりで宜しくねぇ」
「なんてったって俺ら契約した彼女待たせてるし」

 T字型のほうきを押し付けられた。これで当番を押し付けられたのは連続三週間になる。わお、連続記録更新だ。全く持って嬉しくはないが。
 その二人はゲラゲラと気持ちの悪い笑い声を発している。

「あうぅ……」

 じゃあねぇ、と教室から去ろうとしていた男二人はぴたりと動きを止めた。

「リリリ、リボーン様!」

 身長が高いリボーンは必然的に男子を見下ろす形になる。漆黒の鋭い瞳にすくみ上っているようだ。確かに免疫がついていないと動けないだろう。まさに蛇に睨まれた蛙だ。

「お前ら何してんだ?」
「これは、あの」

 この学園の中等部生徒会長である彼は一般生徒からとてつもなく怖がられている。それもしかたないといえばしかたないのだが。獲物は銃、上から下まで真っ黒、ペットはカメレオン。……不気味だ。もう少し愛想を良くする努力が必要だとオレは思う。
男たちをぎらりと睨みつけた。
 
「ひっ! すみませんでしたぁぁ!」

 脱兎の如く逃げ出した男たちを大して面白くなさそうに鼻で笑う。

「あの、リボーン。ありがとう」

 ぺちんと軽く頭を叩かれた。痛くないのに反射で思わず頭を押さえ、痛いと抗議する。

「……はぁ、ダメツナめ」

 ため息とともにぽそりと呟いた。

「なんでお前は自分の事を周囲に言わないんだ」

 そうすれば虐められる事もなくなるだろうに、と言葉の裏にふくませて。

「だって、言っても誰も信じてくれないし。皆が知ってるだけで十分」

 くすくすと笑う。すると、リボーンは怪訝な顔をした。
 ここは普通の学校では無い。ヴァンパイアやインキュバスといったモンスターのみが通うボンゴレ学園。幼等部から大学部までの一貫教育校だ。中でも創立者がヴァンパイアだったという事もあってか学内でもそれらが占める確率が高い。かくいうオレもヴァンパイアなのだ。しかも先祖がえりらしく力が強い。だが制御に難ありでなかなか上手く使えない問題児なのだ。

「十代目ぇぇぇ!!!」

 嵐が来たな、とリボーン。その通りだと苦笑する。

「お怪我はありませんか?!」

 全力で走ってきたのだろう。肩が激しく上下している。

「う、うん。大丈夫だよ、獄寺くん」

 直ぐに参上できず申し訳ありませんでした、と土下座までしている。宥め方が分からないから勘弁してほしい。

「あはは。獄寺、ツナが困ってるのな」
「山本も来たんだ」

 こちらは獄寺くんとは対照的で全く息が上がっていない。さすが野球部エースだ。体力は申し分ない。

「んだと野球バカ! つーか十代目を呼び捨てにするな!」

 段々とヒートアップしていく二人。ああ、ダイナマイトと刀まで出しちゃったよ。更に一番今乱入してきてほしくない人がやってきた。

「なに群れてるの。噛み殺すよ」

 ジャキンとトンファーを取り出す風紀委員長の雲雀さん。……一体誰がこれを収集つけるんだ。
 ふっとリボーンを見ると面白そうに観戦していた。そうでした、リボーンは事態を悪化させるのが得意なんでした。今日は火をつけるようなことを言わないだけマシと思わなくてはいけない。何時もなら火に油を注ぐような真似をするのだ。全く、迷惑な話である。
 オレの中に止めるという選択肢は始めからない。最初のころは必死に止めていたのだが勝つことが出来ないと悟ったのだ。だから事が収まるまで傍観に回るのが得策なのは経験からはじき出された結論。

「早く終わんないかなぁ」

 放っておいたらあとが面倒だしなぁ。
 取り合えず近くにあった椅子に腰かける。ああ窓が吹っ飛んじゃったよ。

「果てろ!」

 そう言いながらダイナマイトを手にするが、山本の得物によって導火線が切断される。最早神業の域だ。雲雀さんはその隙を突いて山本に殴りかかるが、持前の反射神経で避けた。山本がいた場所から階下が見える。どれだけ力が強いんだ。トンファーで床をぶち抜くなんてこの人くらいしかできそうにないし、やりそうにないだろう。ていうか風紀委員が率先して風紀を乱してますがそこのところどうなんでしょうか、雲雀さん。
 いつの間にかリボーンも参戦していてとんでもないことになっていた。頭の中に“地獄絵図”という言葉がちらつきだす。
いい加減止めるべきなのだろうか。ちらり、と時計を見やる。寮の夕食に間に合うだろうか。基本的に食物からしか栄養を摂取できない俺にとって、これは死活問題だ。
 明日は新月。何時もよりは力をコントロール出来るはず。ポケットから27と刺繍された手袋を取り出す。それに力を込め、グローブへと変化させた。 ふっと息を吐き、橙を灯す。

「いい加減にしろぉぉ!」

 炎の球を四人目掛けて撃った。瞬時に対応出来たのはリボーンだけ。残りは髪や服の一部分が焦げている。

「オレ、先に帰るからね! 好きなだけ暴れてジョットに怒られればいいんだ!」

 鞄を手にして教室のドアに手をかける。引き留める声が聞こえたが1時間も待ったんだからこれ以上譲歩するつもりはない。ご飯の為に寮までの道を全力で駆けた。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ