novel
□虹のあるところ
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ヨーロッパを彷彿させる店構えに花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。看板には「ヘアーサロン アルコバレーノ」と装飾された字体で記されていた。おどおどとしながら薔薇のアーチを潜ると、ちょうどカットし終えたお客さんと美容師さんにすれ違う。
中に入ると6つのセット椅子と店内の奥にシャンプー台が3つ並べられていた。
「す、スミマセン。予約してた沢田ですけど……」
受付で告げるとセミロングで黒髪をした美容師さんが笑顔で対応してくれた。
「伺っております。担当の希望は御座いますか?」
美容室に来るのは初めてだ。今までは専ら近所の床屋。ひょろっとしたおじちゃんに切ってもらっていた。
キラキラとした店内をキョロキョロと見回す。挙動不審な動きをしているという自覚はあるがどうにも落ち着かない。
「い、いいいえ!!」
「そうですか、では此方で少々お待ちください」
にっこりと笑いかけられた。顔に熱が集中する。カチコチとぎこちない動きで座るように促された椅子に着く。
女性誌だけではなく、男性誌も棚に収められていたが見る気にはなれない。というか普段からそこまで服装に拘っているわけではない。そもそも、ここに来たのだって……
「沢田さま、お待たせ致しました」
目の前には赤色の服で長い髪を三編みにしている若い男性がいた。
「こちらにどうぞ」
案内されたのはシャンプー台。どうやらカット料金に含まれているようだった。
ふかふかのソファーのような椅子に座り、台が少しずつ平行になっていく。オレンジの優しい光に早くもうつらうつらとする。
「失礼します」
目に優しくタオルを被された。目を閉じるともうそこは暗闇で。欠伸をしそうになるのを必死に堪える。
次第にシャワーの音が聴こえてきた。今はそれさえも子守唄になる。
そして頭が温かくなった。シャンプーを始めたのだろう。
「お湯、熱くないですか?」
「はい〜……」
間延びして変な返事になってしまった。しかしそれほどまでに気持ちが良いのだ。髪を軽く濯がれ、シャワーが止まった。割れ物を扱うかのようにひどく優しい手付きで髪を洗われる。そしてそこで意識は完璧に落ちてしまった。
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