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□ピース、ひとつ。
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カタカタと電卓を叩く音が心地よい。先ほどから背後に痛いほどの視線を感じているのだ。
視線の主はわかっている。視線の意味は、疑いとか期待とか、きっとそんなもの。どうでもよい。

「ゼラはまだ帰らないんですか?」
僕は、電卓を叩く指を止めゼラの方に向き直った。ゼラはいきなり沈黙が破られたことに少々驚きながらも、軽く頷くそぶりを見せた。

「僕がいたらじゃまか?」

「とんでもないですよ。」

邪魔、と本人を目の前にして言えるわけがなかろう。僕は微笑んでみせた。するとゼラも笑うのだ。

「お前は光クラブの誇りだよ、デンタク。」

「ありがとうございます。」

「たまには息抜きしてもいいんだぞ。」

「お言葉ですが、僕は数字と向き合うのが好きなのです。」

そう、数字と、ね。
ゼラは心なしか一瞬だけ寂しそうな顔をして、「そうか」とぽつりと零すように呟いた。
用事がないなら早く帰ってくれたらいいのにな。しかしゼラがそうしない理由も、薄々勘付いてきてしまった最近のぼく。

「デンタク、もしよかったら一緒に帰らないか?」

ほら。

「…すいません、確認したい動作があるので。」

ほら、またそんな顔をして。
ゼラはまた「そうか」と短く返して僕に淋しそうに笑いかけると、放置されていたカバンの肩ひもを肩にかけ、基地を後にした。
ゼラが去った後も、電卓を叩く音だけが響いた。そして先ほどゼラの顔色、声色。
『もしよかったら一緒に帰らないか?』
ああ。

「気色悪い」

数字で割り切れないものなんて。


END

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