ssbook1

□恋愛対象というものは
1ページ/1ページ


季節は梅雨という厄介な時期にさしかかろうとしているのだ。その前兆なのだろう空気は湿って重たくとにかく蒸し暑い。
俺とニコは、図書室にいた。螢光中の図書室なんて最低である。狭いし男しかいないし(まあそれはどこにいってもおなじなのだが。)特別本が多く置かれているなんてこともない。
図書室なんてゼラやデンタクみたいな物好きな輩がちらほらみえるだけでほとんど生徒の遊び場と化しているのである。
でも俺とニコは、図書室にいた。遊んでいるのでもなく、図書室にいた。
いや図書室にいた、といえは少し語弊があるかもしれない。俺が、つけてきた。
難しそうな顔をして本に目を落としているニコの顔をじっと眺めているのだ。
時折ニコが気まずそうにこちらをちらりとみて、目が合えば微笑んで返すのだがすぐにそそくさと目をそらす。
俺は、真剣なニコの横顔が好きなのだ。
それと同時にかまって欲しいという欲求が膨らんで複雑な気持ちなのだ。
ずっと眺めていたい気もするし、かまって欲しいという気持ちもある。
しかし、俺が悩んでいるすきに、ニコは本を音を立てて閉じると無造作に本棚に押し込み俺から逃げるようにダッと勢い良く駆け出した!
でもニコが足の速さで俺に勝てるか?答えはNOである。(あ、ゼラっぽい。)
直ぐにぐんと腕を引いておいどこにいくんだと呟けばばたばたと暴れて抵抗しようとするもすぐに諦め俺を睨んだ。

「なんだよおまえ!俺は本を読みにきたのに!人の顔みてにやにやして!わっけわかんねえよ!」

ニコは常に本気である。
そして今回も本気で動揺しているのである。
まあそんなところがかわいいんだけどねとか思いながら首筋をべろりと舐めてやった。
ニコはまた本気で俺を拒絶した。

「だから!気持ち悪いぞおまえ!」

図書室も結構暑かったから、汗をかいていたのかしょっぱい味がした。

「俺は本が読みたくてここに来たのに!」

ニコ、図書室なんだから声のボリューム考えろよな。

「おまえはなんなんだぁ!ばか!わっけわかんねえ!」

またじたばたしだしたニコを取り押さえるとこれまたすぐに静かになった。


「…違うのよ、あれだよあれ。」

「なんだよ」

「塩分補給?」

ニコがぽかんと口を開けて首を傾げるのだ。苦し紛れのいい訳はやはり通用しなかったのか!また変な目でみられるのかも!やだ!


「おまえ家に塩もねえのか?
 俺の家の塩でよかったらあげようか?
 あっでも母ちゃんに許可とってからな?それまでまてるか?」

そしてニコは本気で馬鹿なのである。
愛すべき馬鹿なのである。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ