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□狂おしい距離
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もうやめて、と今にも消え入ってしまいそうなほど弱々しい声がした。
田宮は気取って彼の頭を撫でると、やめないよ、とひとこと言った。
それから部屋の硝子戸を開け放つ。眩しい光が部屋に降り注いで思わず目を細めた。


「なんで」

「こんなことするのかって?」

「頭おかしいよ、キチガイ」

「また殴られたいか」

彼はびくりと過剰に身体を反応させて怯えた。
その反応に心底満足して唇をつりあげてにんまりと笑うと、もう一度彼の頭を撫でる。
触るなと言わんばかりの彼の形相が気にくわなくて、ああ、愛してるのにな。なんて思いながら腹を蹴飛ばすのだ。
悲鳴にもならない呻き声をあげその場に倒れ込んで、胃の中の消化されきっていない液体状の食べ物がまき散らされる。
きたねえなと笑えば涙目で睨んでくる。

そもそも何故田宮の愛情がこんなに歪んでしまったのか、問いたい気持ちを堪え田伏は涙を流す。
大きな瞳からぼろぼろと零れる涙は呆れるほど綺麗であった。

「タミヤくんなんて嫌い、大嫌い、嫌い嫌い、もう顔も見たくない」

「まだそんなに喋れるのか。じゃあ次は喉を潰そうか?」

すると素直に黙り込む。
立ち上がろうと、身体を動かすとそこら中に激痛が走り顔を歪めた。
痣だらけで、切り傷だらけで、多分骨も何本か折れている。
それでもなんとか足にぐっと力を入れ自力で立ち上がった。
まるで死人の様な瞳に田宮はぞくりとして、またうっとりと見入った。
なんて美しい。

「やっぱりお前は最高だな、流石は俺の惚れた男だ」

「僕はきらい」

「…、そんな悲しいこというなよ」

すると、着ていたカッターシャツを捲られ、筋肉の程よく付いた白い腹が露になる。
冷たい部屋の空気が肌にしみた。
なにをされるのかと思えば、驚くほど冷たいタミヤの手が、腹筋をなぞるように腹を撫でると
ひやりとした固いものが腹に当てられ、ぷつ、と若干皮膚を貫通した。
どろりとした赤い血液が溢れる。深くは刺さっていないため、とはいっても今の田伏の身体には十分な刺激となった。

「…っ?」

「なあ、俺のこと好きだろ?」

田宮が腹に押し当てたそのナイフをぐりぐりと回しながら首を傾げた。
田伏は


「…すき、だよ」

涙や汗でぐしゃぐしゃの顔をふにゃりと歪ませ、笑うだけだ。




END

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