※大学生設定 君のいない夢を見た。笑ってしまうよね。そんなことはもう、あたりまえでしかないのに。 「君みたいなやつでも、いなくなると少しは寂しいと思うのかな」 大学内のカフェテリアはいつにも増して騒がしかった。新入生が入学した所為だ。哲が用意してくれた席も今日は二人分がせいいっぱいで(いつもは余裕を持って広めに席を取るのだ)、必然的に僕と山本が向き合う形になる。 でも、それでちょうど良かったのかもしれない――。柄にもなくそう思えたのは、山本がイタリアの分校に編入する言ったからだろう。 山本がうん? と首を傾げた。 「なんだかヒバリらしくねぇな」 「沢田のことを考えていたんだ」 沈黙。 僕は少し間を置いてから、 「本当に僕らしくないよな」 と、自嘲した。 それからオレンジジュースのストローをくわえ、胃の中にむりやり流し込む。「冗談だと思うかい?」。山本の反応が思いのほか薄かったので、駄目押しで訊くと、彼はようやく自分がここにいる意味を思い出したようだった。 言い換えれば、僕が山本と群れている理由をだ。 「そういやあ俺って、ツナの代わりだったよな」 という山本の言葉には多少の語弊があるけれど(僕は別に、彼のことを邪な目で見たりしない)、まあ、それほど間違ってもいないのだろう。 僕は昔からずっと、沢田のことを気にかけていた。マフィア・ボンゴレを継いだ時も、修行と称して単身でイタリアへ渡ってしまった時も――。沢田はいつだって僕の隣にはいなかったのに、恋しくてしかたないんだ。自分でも、ばからしいとは思うけれど。 山本も、言ってしまえばただのばかだ。こんな僕に付き合う必要なんてないのに。それでも彼の先程のような脳天気さは僕や哲には――あるいは沢田にも――なく、救われている部分はあるのかもしれない。 そう、だからこそ僕は、現に寂しいと思ってしまっている。特に今は春だから、この幸福に満ちた喧騒は、僕には痛すぎた。 「沢田がいなくなる夢を見た」 僕の中から何かがこぼれた。溢れた。山本が黙って頷いた。 「僕は追いかけたかったのかもしれないし、そうでなかったのかもしれない。今ではもうよくわからないんだ」 だって君のいない毎日は、今も昔もあたりまえのことだから。僕もいつの間にか年をとっていって、君を思って泣くほど子供ではなくなってしまったよ。 「だけど……君までいなくなるのは……かなしいね」 山本が複雑な表情で僕の目を見つめた。こんな顔もできるんだ、とどうでもいいことを考えながら、もう一度同じ質問を投げかける。 「冗談だと思うかい?」 「んなのわかんねぇよ……」 「山本のそういう正直なところは、嫌いじゃないよ」 「からかってるのか?」 「違う。ただ本当に、そう思ったから言っただけさ」 僕はゆっくりと瞳を閉じた。そうしてはじめて自分が泣いていることに気付いた。 山本は何も言わない。多分それは僕の流した涙が、やり場のない感情が、理不尽に彼を責めているからに違いなかった。 120306 |