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□恋心ライン
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朝、鏡の前でハサミを持つ私。ぷるぷると震える手を前髪へと近付ける。

チョキ、

「あ、あぁ…」

怖い。非常に怖いしかし私は決めたのだ。いや、決めたっていうか何ていうか気分なのだけれど。朝起きて顔を洗っていると鏡に映る目の前の自分の前髪が目についた。別に気にするような長さでも無いのだが、ふと髪の毛を切りたい衝動に駆られた。



チョキ、チョキ、

ぱらぱらと髪の毛が落ちていき私の前髪はほんの少しだけれど短くなった。あと少し、あと少しだけ切ろう。きっと切った方が可愛いはずだ。うんイメージ出来た、きっと可愛い。よし、


チョキ、









「うぅ…」

学校行きたくない。
私は前髪を押さえてご飯をもぐもぐと頬張る。こら、ちゃんと両手でご飯食べなさい!お母さんに怒られたけれど私は手を退さない。絶対に退すものか。あぁ、なんで私あの時切るのやめなかったんだろう、あの時に今戻れたら私は間違いなくぷるぷるとハサミを持つ自分を止めてるのに。えぇ殴ってでも止めますとも。


「行ってきまーす…」

美味しいはずの朝ご飯も何だか前髪が気になって味がしなかった。どうしようみんなに笑われるかもしれない、あぁでも嫌だな、みんなよりなによりあの人だけには笑われたくないよ。


「お、おはよー」

教室に入れば周りは私に注目する。私は一歩後退。左手で前髪を押さえて私はヒクヒクと作り笑いを浮かべた。

あぁ嫌になる。



ドンッ


「った!」

「あ、わりっ!」

ふいに私の背中に衝撃が走った。それはクラスの男子で、どうやら私にぶつかってしまったらしい。グラリ、よろけたはずみで私は左手を前髪から外してしまった。

私は慌てて前髪を押さえたけれど時すでに遅し、教室の友人は吹き出しながら私をみていた。全身の血がさーっと引いたのが分かった後すぐにカァ、と顔が熱くなる。恥ずかしい!

「何?前髪失敗したの?」

ニヤニヤと笑う友人にムカついたけれど私は嫌な予感がし、チラリと横へ目線を移した。あ、あああ!
そこには自分の席に座りつつも私を見ている慈郎君。慈郎、君!見られてしまった!慈郎君に見られてしまった!私が今日一番反応を見たくない人物はバッチリと私を見ている、そして私とバッチリと目が合っているではないか!今なら死ねる。恥ずかしさで死ねる。むしろさっきぶつかって来た男子を恨んでやる、そして怨霊になってやるんだから!あぁもう目の前でいまだに笑ってる友人が憎すぎる。泣きたい。





「可愛いー」


え、あ、え?

ええ?


前髪を押さえ友人を睨んでいるとふいに聞こえたその声は間違いなく慈郎君の声で、けれど重要なのはその言葉。え、何?もしかして聞き間違いかな、そうだきっと何か聞き間違ってしまったんだ。あぁ恥ずかしい、私の耳は恥ずかしさやら何やらでとうとう幻聴を催したんだ。

ゆっくりと慈郎君の方向を見れば慈郎君は私を見ながらニコニコとしていた。え、何、どっちだ、どっちなんだ!聞き間違い?それとも本当に私に言ったの?私に、言ったの!?

あまりの展開に私の手からは力が抜ける。それはもう間抜け面で私は間抜けな前髪を晒すという恥ずかしさ二倍な風貌なのだけれど慈郎君はそんな私を見てまた可愛いとクスクス笑った。






おわり

―――――――――

326000、那美様キリリクで慈郎甘夢。慈郎とジロー、なんだか文字を変えるだけで私の中で印象が変わってしまう不思議。
きっとこの慈郎君はヒロインの気持ちに気付いてます。


09.10.23

すずめ

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