その他学校
□ギブミー○○
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私の好きな人は煙草も吸うし服のセンスおかしいしいつもだらしなくって無精髭なんか生やしている。けど時々見せる表情がとてつもなく格好いい。あぁもう私以外に笑いかけないでよ。
チリチリと痛む胸をギュッと押さえて私はオサムちゃんを見る。今はテニス部の部活中で顧問のオサムちゃんはみんなとなにやら談笑しているらしい。白石君や忍足君、挙句の果てには一年の遠山君にまで笑顔を見せている。同性だけど、部活だけど、分かってるけど、でも、私の胸はチリチリと痛んだ。
「なぁ、」
「なに一氏君」
「自分、噂なっとんで」
「そう」
「そう、ってなぁ…」
はぁー、と溜め息を吐かれた。なに、別に私は平気よ。だって私悪い事しているわけじゃないもん。
ホウキに顎を乗せてどこか遠くを見つめる一氏君は私以上に深刻な表情をしている。
「一氏君がそんな表情する必要ないよ」
「やけど、さ…」
「好きなのは事実だもん」
私が言われてるぶんには別に構わない。
「でもオサムちゃんに迷惑かかっちゃう、かな…」
ぽつりと呟いた言葉に一氏君は私を見て目を見開き、動きを止めた。けどそれも一瞬で次には深く眉間に皺を寄せ目線を下げた。
「そんなん、不毛やん…」
「うん、不毛だ」
「分かっとんなら…」
「でも好きなんだよね」
一瞬一氏君が泣きそうに見えた。ありがとう、一氏君は優しいから、私よりも敏感になっちゃうんだよね。ありがとう。
ゴミ捨てに行ってくる、そう言って私は隣りに置いてあるゴミ箱を抱えて教室を出た。
あぁダルい。ガサリ、ゴミ箱の中のゴミをごみ捨て場に投げ込むとその場にしゃがみ込む。私の腰くらいまであるゴミ箱は私の体を支えるのにはちょうど良い。あーだるー
噂、かぁ。オサムちゃんの耳に入ったかなぁ。私の気持ちに気付かないオサムちゃんが悪いんだ。うん、
でも避けられたりしちゃったら
「嫌だなぁ…」
はぁ、と溜め息を吐けば目線の端に足が見えた。聞かれちゃったかなと顔を上げればそこに居たのは一氏くん。どうしたの、と声をかければどうやら私を心配して来たらしい。
「別に平気なのに」
「でも、最近…顔色悪いし、」
「そう?最近あまり寝れてないからかな…」
「…何で」
「私にもよく分んない」
「もう、止めたらええやん」
「何を」
「…オサムちゃん」
「…」
「…」
「…」
「…何か言わんかい」
「あ、いや、うん。考えてただけ」
「…アホ」
「うん、私アホみたいだね」
「…いや、ちがっ」
「止められないや」
「…」
「好きって止めようと思って止めれるもんじゃないよ」
あぁ泣きそうだ。ジワジワと焼ける様に熱くなってくる目頭。そんな私に釣られて一氏君まで表情を歪ませる。いや、私の視界がただぐにゃぐにゃと揺れているだけかもしれない。一氏君は笑っているのかもしれない。ぐらり、私の中の世界が一気に回る。
私の意識はそこで途切れた。
目を覚ませばそこは一面白の世界だった。保健室独特の匂いが鼻孔を通って肺一杯に入り込む。あれ、なんで私保健室なんかに居るの。
横になっていた体を起こせばギシ、とベッドが音をたてた。
「お、気ぃ付いたか」
「え、…あ、オサムちゃん」
ベッドを仕切るカーテンを開けられたかと思えばそこにはオサムちゃんがいた。え、本当、ちょっと意味分かんない。私がグルグルと頭を回転させていると、お前掃除時間に倒れて一氏に保健室まで運ばれたんやでとオサムちゃんはエスパーの如く言い放った。あぁ、そういえば一氏君との会話の途中で記憶がぷっつりと途切れている。きっと一氏君びっくりしただろうな。頭の中に一氏君の慌てる姿が鮮明に浮かび上がり、私はクスクスと笑いを零した。
「お前なぁ、一氏ほんまに心配してたんやで?」
「いたっ」
「俺も心配したんやからな。でこピンで済ませてやったんや、『優しくて格好いいオサム先生、ありがとう』は?」
「…」
「黙られると辛いでー」
わざとらしく肩を落としてベッドの横に置かれた椅子に座るオサムちゃん。あぁ、本当に何でこんなに格好いいんだろう。大好き、大好き、やっぱり諦められないよ。
「それにしても、一氏と付き合っとるん?」
「…え?」
「いや、お前担いで走る一氏見たらなんや青春感じてなぁ」
どこか斜め方向を向いて語るオサムちゃんの口からはペラペラと私の心をざわつかせる言葉が流れ出る。なに、なに、どうしよう、なに言ってんの、
「お前と一氏お似合いやもんな」
思いっきり青春を謳歌せぇよ、とか馬鹿みたいな笑顔でオサムちゃんが私に言うから、
だから
「…気付いてるくせに」
「ん?」
「気付いてるくせに!私の気持ち知ってるくせに!」
自分でもびっくりする様な声が出た。オサムちゃんにはそんな事言われたく無かった。他の誰に言われても別になんともない話になるはずなのに、大好きなオサムちゃんだけには言われたく無かった。私の心はこんなにも荒れている、オサムちゃんの言葉一つで幸せになれたり泣きたくなったりするというのに。この人は平気で私の心をぐちゃぐちゃに掻き回す。
「私がっ好きな、の、はっ…オサムちゃんなのにっ!」
涙がボロボロと流れては頬を伝って制服を濡らす。胸が痛いよ、痛いよ!私はこんなにも好きなのに!
「…お前の好きはちゃう。お前は今思春期や、憧れと恋愛を勘違いしとるんや」
くしゃくしゃと私の頭を撫でるその手は大きくて優しい。涙で歪んだ視界に映るオサムちゃんはどこか困った表情で私を見ている。
「どうして…見てくれないの」
「私が、中学生だから?」
「私、中学生だけど、大人だよ…っ」
「子ども扱いしないでよ!私を見てよ!」
セーラー服のネクタイに手を掛ける。それをスルリと取って制服のボタンを外し、両手でオサムちゃんの頬を包んで生まれて初めてのキスをした。
「!」
ひらりひらり、地べたについたネクタイが視界の端に映ったけれど私は目を瞑って無視をした。
おわり
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噂は耳に入りつつもただの生徒としか見てないので困るオサムちゃん。態度は優しくても所詮は拒絶。ここから抱くかはオサムちゃんの理性で決まります。だって、ねぇ、ベッドあるし!そして一氏君は言わずもがな恋してます。みんな片思い
09.11.13
すずめ