その他学校
□全て隠した
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「はいこれ!」
「ありがとな」
「私も!」
「さんきゅ」
「頑張って作ったんだ!」
「へぇ、美味そうやなぁ」
朝から廊下で女子の声がきゃあきゃあと響く。その中心にいるのは白石蔵ノ介。毎年毎年その整いすぎている顔のせいかバレンタインには女子に囲まれている。それは今年も例外では無く、むしろ今年は今までで一番の量を貰っている様に思える。
今年で白石は卒業、ここぞとばかりに今まで上げた事のない女子までもがチョコを持って頬を染めている。…言ってしまえば私もその中の一人なわけで。
私は白石を一年の頃から見て来た。それはもちろん顔が好き、っていうのもある。だけど一番の魅力は彼の王子様の様な雰囲気。
彼のどんな動きにもキラキラというオーラが漂い、彼の爪先から頭のてっぺんまで何もかもが華やかだ。
簡単に言えば私は白石蔵ノ介という人物に憧れているんだと思う。それは漫画の中の登場人物に恋をする様な、そんな感覚。
いっその事童話のお姫様にでもなりたい。
ずっと白石に恋をしてきた私。
それはとても素敵な恋で、毎日見れるだけで幸せだった。でも私にはとても遠くて、
童話の中の王子様の様な彼。
お姫様でも何でもない普通の私。
少し離れた場所で全ての女子に均等に与えられているその笑顔を見つめた。
「きっと白石は、迷惑だよ」
こんな私がやっぱりあの人に釣り合う訳がない。何でかな、折角渡せると思ったのに。…違う。私は身の程知らずだったんだ。
そんな事を考えていたら足なんて動かなくなって、まるで私に普段の何倍もの重力がかかった様だった。
動かない体に苛立ち、ギリッと唇を噛み締めて、この小さくて涙が出そうになる気持ちを無理矢理胸にしまいこんだ。
こっそり持っていた小さなピンク色の袋はクシャッ、と小さく音をたてて私のポケットに隠された。
やっぱり、渡せなかった。
俯く事しか出来ない
(すれ違ったあなたは小さく笑った気がした)
(、)
end.