小説

□シンデレラハネムーン
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出会ってからどれくらい経つんだろう。片手では足りなくて両手をつかう、俺達の今まで。
一緒に暮らすようになってから知ったことがたくさんある。
辛い歯磨き粉はだめ、とか。
ゆで卵はかためがすき、とか。
まだまだいっぱいある。…ちょっと言えないようなことも多々

新鮮味は、もうない毎日。
だけど昔は持ってなかった安心感がある。

深夜に帰ってもドアを開けると俺をまっててくれる。
眠い目をこすって「深夜映画、見始めるととまらへんな」なんてごまかして。照れ隠しなのバレバレで。

「なんか食う?」
急にいきいきしだしてかいがいしく夜食の準備をしてくれる。健一のつくるおじやは、俺の好物の一つになった。
食卓で健一は、俺の今日のことをにこにこしながら聞いている。愚痴をこぼしても、変わらずにこにこと。
ずっともやもや燻っていたはずの感情も健一は昇華してくれる。多分本人は無意識。それはとても、ありがたい事なのだ。

夫婦みたい、って思ってた。きっと健一の方も、そうだと思う。
一緒にいるのが当たり前。
だから、失念していたのだ。
…いや、それは言い訳
羞恥が邪魔をした。慣れから来る羞恥心


二人の問題点を挙げるとしたら、明確な約束をしないままここまで来たこと、だった。




「たたたたたかひろ…!」

健一はドアを開けると猛然と俺のところへと走ってきた。空気の方が置いてかれてる。走り抜けた後から遅れて風が吹いた。

「なに、どしたの、また携帯落とした?」
「ちちちちゃうねん!ササササ」
「サ?財布か、」
「ちゃう!サ、サイパン」
「サイパン?」
「…当たったねん」
「へ?」
「福引きで、当たったねん!サイパン!」
「はぁあああ?!」




小一時間二人であたふたした後、冷たい麦茶を飲んだ。
「ふー」



やっと落ち着いたらしい健一が言うには、夕飯の買い物で出掛けた商店街で福引きをやっていて、
「引きたかったけどあと何円か足りんくて…でピノ買ったら券、一枚もらえて…」
キッチンペーパー狙いだったらしい、残念賞の。
「くじ運悪いし、当たるなんて全然思わへんかった…」
鳴り響く特賞のベル
金色の玉のでた時の健一の表情を想像すると、笑えた。俺もついていけばよかった。と思った。


―――――――――――――――
あれよあれよと待ち焦がれたお楽しみは、やってくる。
飛行機では昨日寝られなかった分健一はすぐに、寝た。
俺も、いつのまにか寝ていた。
昨日寝られなかったのは、俺も同じだったのだ。


そんなことなど露知らず。

我が物顔で悠々と、飛行機は空を切る。
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