小説

□愛なんてくれてやる
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「で、俺にお鉢が回ってきたと」
「安元さんなら(神谷さんよりか)わかるかと」
「また難題を…愛ねえ」

俺は唯一の良心に電話してみた。
真剣に考えているようで受話器の向こうが静かになる。
ほんとに、この人は、真面目だ。
「…ヤりたい、って思うとかじゃなくて?」
「…最悪ですねソレ」
「んなこと言ったって…なあ」

前言撤回。

「愛ですよ、愛」
「うーん……………あ、わかった」
「何ですか」
「守りたい、だな」
「守る?」
「そう、守る。動物の母親は自分の子供を守るだろ?死ぬ気で、あれこそ愛、だろ!」
――中村だって好きな奴守りたくなるだろ。


好きな奴……
守りたくなる……うーん…守りたくなる…?

「俺の愛はそれだ、多分」
「俺の?」
「みんな違うだろ、愛なんて」






愛は、従属、だけど相手を守りたくなる。
矛盾した二つの意見を同じ平行線上で考える。
愛はみんな違う。
60億の愛があるのか。

少しだけ、少しだけわかった気がする。頭の中で
だけどその、わかりかけたシルエットは輪郭がぼやけてて、平面的だ。

愛、従属、守りたい

確かに当て嵌まっているかもしれない、俺ではなく、あいつに――


携帯が鳴る
このふざけた着信音は…名前をみなくてもわかる。
変えておけと言ったのに、阿呆。


「もしも」
「元気か中村」

阿呆は言葉尻を遮った。
いつものことだ

「昨日会っただろ」
「いや、今日の中村は元気かと」
「…元気」
「俺もだ」

なんだこの応酬は

「ガンダム見たぞ、今週の中村、よかった」
「…、ああ」
「ただサ行の発音が少し気になったぞ、風邪でもひいてたのか」
「…あ。そういえばあの時は、少し風邪気味で」
「言えよ!看病に行ったのに…でもまあ、泣きのとこは泣けた。」
「…うん」

素直に返事をした自分に驚いた。
杉田が仕事の面で俺を褒めるなんて珍しいから、きっと俺は動揺していたのだ。
そして多分動揺していたから、
俺は今日三回目の質問を口にする。

「愛ってなんだ、杉田」
「…どうした、やけに積極的だな」
「ちがう。愛ってどんな感情かきいてんの」
「…聞きたいか?」
「…やっぱい」
「あのな、」

また人の話を聞かない。



「例えばな、昨日見た映画。あれを俺は中村と俺に置き換えて見てた。」
「な!」
「というか、いつもだ、俺はドラマをみるときも漫画を読む時もアフレコするときも、いつも、登場人物は俺と中村だ」
「……………」

予想以上だった。
予想以上の変態だった。
コイツは、昨日俺の隣で
今日現場で、…
絶句した俺をおいて杉田は続ける。


「俺はいつも中村の事ばっかりぐるぐるぐるぐる考えてる。」
「中村の事を考えるのは、愛だろ。」
「俺の愛は、おまえだ。」



…阿呆だ。
阿呆だ、
阿呆なのは杉田だけじゃない。
杉田の言葉で、不本意ながらも赤くなっている、俺もかなりの大阿呆だ。




愛とは、従属、守りたい、そして、…俺。
60億の答えは、おまえ なのか?杉田。

なんだか、狐につままれたみたいだ。


「…」
「愛してるよ、僕の子猫ちゃん」
「…………」






…………………



愛、なんてわからない。


わかったのは、杉田は真性の阿呆だということ。と
あいつの言う、それは…悪い気はしないということ。






ただ、それだけ







(ま、いっか)











愛なんてくれてやる













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