小説

□春、スナフキン
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「…大丈夫?」
公園のベンチに座らされてそう問われる。
「うん…」
心配そうに覗き込む櫻井にそう返すと、彼が二言目に口にしたのは憤りだった。

「なんで黙ってんだよ!俺が気付かなかったらどうなってたと思ってんの?……何で言ってくんないんだよ…」
「…ていうか……早く気付かなくて…ゴメン」

俺を叱る言葉は段々自信を失って尻窄みになった。
ぽかんと櫻井を見ていた俺だったが怒られて、謝られて、張っていた緊張の糸が切れたらしい。
想いとは関係なく涙が伝った。
泣いてる俺に気付いて、うわ!と慌てた櫻井はポケットをごそごそと探る。
でてきたのは太陽の匂いのするハンカチとかわいくないのどあめ。
「これ食って、落ち着け」
渡されたハンカチで涙を拭うと、のどあめを口にほうり込まれる。

むぐ、…にがい

しかめた顔をまた泣き出す前兆と勘違いした櫻井はまたごめんごめんと謝った。



「ありがとな、櫻井」

壁が崩れたのを感じた。
二人の間の風通しがよくなるのを。

カラコロと飴を転がしていると、櫻井が恐々口を開く。


「なんかさ、さっきあんな事あった今なのにさ」
「言うの狡いと思うんだけど、それはわかるんだけど。」
「てかおまえふわふわしてんなよ、なにおっさんに触られてんの」
「いや、おまえのせいじゃないんだけど…」
「…うん。言う。俺、鈴が好き」
「ライクじゃなくてラブ、で」


ごめん とまた櫻井が謝った。
何回謝れば気が済むんだろう。


当の本人である俺は、なんだか落ち着いていた。
櫻井、優しい声に戻ってる。
緊張してるけど、俺の、好きな、優しい声。

オトコだとかオンナだとか
男同士だとか
拘泥してたはずの世間一般の常識なんて、これっぽっちも浮かばなかった。
俺は馬鹿かもしれない。わかんない数学以上に自分の考えはわからない。

ただ一つ、わかっているのは

櫻井に告白されて、嬉しいということ。
この目の前の男に好きだと言われて、嬉しいということ。


…解けた。
これが期末考査だったなら俺は追試を受けなくて済んだのに。


すごく自然だった。
何も言わず俺は櫻井を引き寄せる。
優しく唇を押し付けると櫻井の体が強張るのがわかった。
うっすら目を開けると櫻井は律儀に瞼を閉じていた。
かわいい、と思う。
それすら至極、自然だ。
舌で、さっき貰ったこいつの不器用な優しさを 俺からも、あげる。

「ん…」

名残惜しい気がしたけど離れた唇をぺろりと舐める。
それを見て櫻井は、顔を赤くした。


「のどあめ返すわ」
「苦いし、さっき櫻井叫んだしなっ!ラブな俺のために!」

にししと笑う。また櫻井に小突かれる。


「このやろ…」
「へへへ」



現金なやつだと思う、俺は。
あんな体験したあとなのに、今はものすごくしあわせだから。

なんとなく軽い足取りで二人は、歩く。
学校はサボる事にした。先生ごめん。
けど今日学んだ事がある。





初ちゅーは…にがい。







(だけど始まった、甘い関係。)









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ゴルバチョフさんごめんなさい
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