小説

□メロウな関係
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するりと体制を変え健一を前から抱きしめる。あやすように優しくぽんぽんと背中をたたいてやると、健一はおとなしくなり重みを俺に預けた。
「甘えたさんだね。」
「…うっさい」
憎まれ口を叩く癖に離れようともしない健一を、かわいい、と思った。その感情はなんだか懐かしい気がする。忘れられてた青春を追体験しているかのような爽やかな甘さ。
こうやって健一を抱いているとそんな新鮮で、それでいてほっこりとしたしあわせに包まれるような気分になるのだ。

手を緩めて少し距離をつくって、目のふちが赤いなあ、なんて思いながら健一のおでこに一つ、キスを落とした。
少し体をよじる健一は嫌がっている訳では、なくて
焦らすように唇以外の所にキスしていると恨めしそうに健一が俺を覗き込んだ。
「…いじわる」
ふふと笑って「何が」としらばっくれた。
頬を膨らませた健一は「バカ宏」とぽろりと零して乱暴に自分からくちづけてきた。軽くつつくようにしていたが俺が何もしないのを見ると唇をこじ開けてぬろりと舌が入ってきた。意地になっている健一が俺の口内を蹂躙する。面白いものを見物している気分だったが、健一も健一で、キスがうまい。だんだん頭の芯が痺れてきたのを飛びそうな意識の端で感じた。
スイッチが入ったのはおまえのせいだぞ。俺は応戦することに決め、くちづけに集中する。
「ん………ッはぁ…」
逃がさない。息継ぎをするため離された唇をまた押し付ける。驚いたようで健一は少し動揺した風に目を泳がす。そしてゆっくり目をつぶって、眉根を寄せて、切なそうな顔をした。
くちゅり、くちゅりと舌の絡み合う音と時たま聞こえる生っぽい吐息で頭も融点へと近づく頃
「ぷは!」
と健一に腕を突っぱねられた。
はあはあと肩で息をしている。
健一は赤い顔をして斜め下を見ながら「しつこいねん…」とのたまわった。
「だって、おまえが誘うから…」
「誘っとらんわボケ」
さっきまでの殊勝な態度はどこへやら。ぽきぽき首を鳴らす様子に色気は微塵もない。
「もーいいの?」
「うん。もういい。」
清々しい顔で、にこりと笑って健一は言った。
「ありがと」
「んー」
正直俺はあれくらいでは物足りないのだけれど、まあ、笑顔が見れたのでよしとするか。
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