小説

□さみしがりは、どっち?
1ページ/2ページ


ガチャリ、鍵穴が重々しい音をたてた。もうそこでわかっていたのだが認めたくはなくて、扉を開ける。冷たい部屋、行くとメールを入れておいたのに、部屋の主は留守だった。傾けないように注意して持ってきたケーキが恥をかいてしまった。

「…イチゴのやつ選んだのに」

何処へ向けるでもなく不機嫌。
ぱちりと電灯のスイッチを入れる、と、部屋にいたソイツ、と目が、合った、真っ黒なプラスチックみたいな目。
見つめてくる、濡れた黒目の前に動く事ができない俺。
永遠に続くかに思えた攻防戦を俺が意を決して、裂く。

「…ウサギ?」

答えるように首輪がちりんと鳴った。



状況を整理してみる。灰色で耳の垂れたこいつ…世間一般に知られている白くて目の赤いやつとは少し違うけど、まぎれもなくウサギだろう。
赤い首輪、先週まではいなかった。
…健一が拾ってきたのだろうか。いや、でも猫や犬ならまだしも、ウサギって…。
毛並みはつやつやしているし、手入れは行き届いているみたいだ。
物音を聞き付け奥からでてきたももとアイビーとも仲が良いらしい。キャッキャと遊んでいる。…なんだか俺の方がよそ者みたいだ。
なんだかむっとしてウサギを抱き上げる。二匹は抗議の声をあげていたが、諦めて寝室の方へと走り去っていった。

しかし、柔らかい…上等の毛皮になりそうだな…なんて物騒な考えを振り払う。ウサギは凄く温かかった。真ん丸の目で俺をキョトンと見つめてくるその顔は愛嬌があって、どこかマヌケで、

「…お前、健一に似てるな」

ウサギはわかったのかわかっていないのか。くぅんと鼻を鳴らすような声を出した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ