小説
□指先に触れる温度だけ
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きっと返信は深夜に来るだろう。
いつもの独り言みたいに一方的な文面で。
仕事終わりで、電車の手摺りに縋りながらコチコチと。
それか、来ない。
どうせ明日会うのだし。寝てるだろうと考え、送らない。
だけど俺にとって杉田からメールが来ようが来まいが、それは同意義なのだ。
温度のない、液晶の文字には
そんな対した意味は、ない、文字には。
――今どこ
無駄を全て削いだ簡潔なメールだった。
だけど稀な、「新着メール:中村」の液晶表示に俺は当たり前に嬉しくなる、ボタンを押す指が急ぐ。
――帰宅途中、もうすぐつく。
パクリと携帯を閉じる。
歩く速度をあげる。
返信は、来ないだろう。もうすぐ会えるのだし、
いらない。
家路を急いだ。
メールを送った。
多分暇潰しくらいの意味。
パクリと携帯を閉じるとふと乱雑だった部屋に気付く。
台本やら服やら、かなりごちゃごちゃとしている。
「…ったく」
暇潰しついでに片付ける事にする。
さっきの返信は、しない。
いらない。
鍵が開いてるのは知ってる。
「ただいま」
部屋が綺麗になっていた。
待ち人は背中を向けてゲームをしている。
「ただいま」
「おかえり」
こっちを見ない。
画面に釘付け。
そんなつれない中村を後ろから抱きしめる
「ただいま」
「おかえりっていってんじゃん」
猫背の温かさに安心する。
「ただいま」
とぎれとぎれのメール通信
いらない。
暇潰し、でいいのだ。
冷たい液晶画面、
いらない。
温かい(冷たい)こいつだけいればいい。
俺たちは
指先に触れる温度だけ
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ラブラブ でれでれ