小説

□さよならブラック
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Our promise still holds







「…さむ!」
目覚めると窓が開いていた。
3月に入ったとはいえまだ夜は冷え込む。自分の吐く息が白いのが見えた。室内なのに!

「さみーよ」
俺は掛け布団に包まりながら窓際の彼に不平を言った。ことり、と時計を見るとまだ夜、な時間。
健一の剥き出しの背中が暗闇で淡く発光している。薄い二の腕と少しついた肩の筋肉と尖った肩甲骨、白い尻。
安いアパートの低い窓から健一は外を見ていた。

「てか風邪ひくよ、服着ろよ」
「えーの」

健一の目をいまだ空はくぎづけたまま。俺は布団を避け体を起こした。健一と同じ目線になる。
冷たい外気に曝された素肌にさあっと鳥肌が立つのがわかった。

「何があんの」

健一はやっと首だけで俺の方を見た。

「星、今日めっちゃきれい」

逆光でよく見えなかったけど、健一が笑ったのはわかった。
なるほど、部屋の中より外の方が明るい。意を決して寝床から抜け出し這うように進む。

「やっぱさみーよ」

月の光に照らされて素っ裸の男がふたり。客観的に見るとそれは異様な光景で、思わず吹き出すとつられて健一も笑った。なんだか目を見合わすだけで可笑しくて、腹を抱えて二人で笑った。

ひとしきり笑った後突然その無邪気な笑顔にぐらりときて、泣きたくなって、途方もなく愛しくなって。健一を抱き寄せた。
触れた部分が徐々に熱をもってくる。じんわりと暖かさが心を埋める。

「なあ、たかひろ?」
「ん?」

健一は俺の胸に頬っぺたをくっつけたまま言う。

「星って、きれいやんなぁ」
「うん」
「うん、いやそれだけやねんけど」
「うん」
「なぁ、たかひろ」
「うん」
「俺なあ、なんか今めっちゃしあわせ、よ?」
「うん…俺も」

なんだか星と健一と幸福で胸がいっぱいだった。ふと気付けた幸せの大きさ、奇跡に、泣きそうになった。愛しい君を抱きしめる。今、すごい、視界がクリア
世界が素晴らしくみえる。

いつの間にか寒さを忘れていた。
幸せに殺されそうな、星の夜。





(私たちの約束は今でも有効です)








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結局は惚気
 

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