小説

□向日葵か太陽か
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向日葵か太陽か







「…ちは」
所在なさげに暖簾をくぐってきた櫻井に視線が集中する。
すっかり出来上がってる様子の岩田が少し驚いたように問うた。
「あれ〜櫻井くんどしたの?」
「あっ、や……健一が…」
「ピンピン?ピンピンならあそこで」
寝てるよ。と指された方を見遣れば成程、頬を染めて湯気をたてた健一が皆から少し離れた所に寝かされていた。

「…むにゃ」
脳天気な寝顔をみた櫻井はやっぱり、と少し諦めたように健一を小突いた。
「おまえが来いって言ったんじゃん」
メールを受け取ってからは早かった。すっかりくつろぎモードだった自分のギアを切り替えて、着替えて、タクシーをひろって、そして来たというのに。
なのにこれだ。
すやすやと規則正しく寝息をたてる恋人に毒づく。
夢の世界へ旅だってんじゃねーよ。バーカ、ハーゲ

最近忙しくて会えなかった。
何にでも果敢に挑戦する健一を俺は眩しく思う。
だけどいつも前を向いているこの男を見て、なんだか遠くにいるように感じる時も、無きにしもあらず。で
頑張ってる健一をみていたら、うだうだ夜中に淋しがってる自分が、なんだか恥ずかしく思えて。
電話をしたら負けだと思った。
淋しい時は丸まって、ひやりとする感情を逃がす。
ほんとは早く会いたいと思ってた。声だけでも聞きたいなんて女々しい事を。
メールがきたとき嬉しかった。
健一も俺に会いたかったんだって思って、嬉しくて。心が急いで。タクシーを止める間すら惜しくて、でもそんなの悟られたくなくて、隠して。
少し不機嫌そうな顔をつくって。
なのに
この男ときたら
期待していた自分が惨めで、浅ましい。

「俺、かえるから」
届かない相手にそう言って立ち去ろうとするとぐいと服の裾を掴まれた。
「んん…たかひろ…」
驚いて振り返ると掴んだ手はそのままに やはり幸せそうに眠る健一がいた。
無意識下のはずなのに 俺の名前を、呼んだ。
なんだかその事実で 目頭がかあっと熱くなった。
かっこわるいって、そう思う俺の理性でこぼれそうな涙を押さえつける。
そうだ、こいつはいつも真っ直ぐだ
目の前のものに全身全霊で真摯に、真剣に立ち向かって。
プレッシャーに押しつぶされそうでも、笑って。
周りまで、笑顔に変えて。そう、俺さえも
なんだか開放された気がした。全部受け止めてもらえたような。

「おつかれ、健一」
くしゃりと頭を撫でる。
健一はまた、笑った気がした。
俺も くすりと笑って隣に腰を下ろす。

「あっ、俺にもなんか軽いやつください。」







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なんか普段と逆
 

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