小説

□パララックス
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Honey.where are my keys ?






「どうしたんですか、コレ」
暗闇の中で俺の足を撫でていた小野くんが言った。

とろりと黒が溶けるような夜だ。
先刻までの色情が色濃く残るまま、俺は小野くんとまどろみながら、戯れていた。
戯れ、…そうか。
羽蟲のように閃きが浮かぶ。
前々から形は見えないまでも、思ってきたこと

「綺麗な、傷、ですね」

またこの男は訳のわからないことを言う。
それは左の太腿にある。ひきつれてつるつるとした、小さな傷。
小野くんは愛おしそうにそれを摩りながら言う。

「痛い、ですか?」
「…痛い。」

わけはない。かなり昔の傷だ。
もう自分という輪郭に溶けて、一部になっている。
だけどなんとなく、俺は痛いと言ってみた。

「そうですか」

何故か小野くんは嬉しそうに傷を摩る。玩具を見つけたような、子供っぽい目。

「痛いって言ってんじゃん。」

なんだか苛ついて、語気を強めて言うと、小野くんは傷をぺろりと舐めた。
渇いてざらついた舌、…そうだ。頭の中で像を結ぶ、君。
小野くんは、猫に似ているのだ。淋しい時擦り寄ってくる、猫に。

吸ったり、舌先でつついたり、少し歯をたてたり。小野くんは俺を弄ぶ。傷は紅い華を咲かす。

「もっと綺麗に、なりました」

怪しく笑う彼に引き寄せられるようにくちづける。
口内は熱い、渇いた小野くんの舌を搦め捕って懸命に濡らす。
段々濡れてきて、俺は安堵する。自分は猫とキスしている訳ではないのだ。そう強く思った。

「……はあッ」

蜘蛛の糸のように唾液を紡ぐ。
ぷつりと繋がりは、切れた。

「ぼくを見てください、神谷さん」
「…はは、また、何を言い出すの」


−ぼくを見てください 神谷さん

言葉が刺さる。
そうだ、小野くんは猫じゃない。

見透かされたようで俺は、少しドキリとした。






(あなた、私の鍵はどこかしら)




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黒い小野もありではないかと
 

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