小説

□a low heat
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Every man is a poet when he is in love




「そんなにさあ」好きなら告(い)っちゃえばいいじゃん。

煎れたてのコーヒーの香り、安い豆でも人が煎れてくれたら美味しくなるのよ。なんて、色が綺麗な映画で言ってた。確かに、自分で煎れるよりも美味しい。ひとくち口をつけて悠一は言った。
「人ん家でうだうだ悩まれるとうざい。」

ここは自分の家だ。コーヒーを煎れたのは杉田だけど。
さっきからため息をついたり暴れてみたり、かとおもったら死んだように静かになってみたり。悩むのくらい一人でしろ。てかうっせーよ。うーうー唸っている杉田に悠一は続ける。
「そんなに悩むくらい…好きなわけ?」そいつのこと。
どうやらこのやかましい男は恋について悩んでいるようだった。相手に気持ちを伝えられないらしい。…女々しい奴。

「俺はな、中村。すっごい、すっごい好きなわけだ。」
待ってましたとばかりに杉田は、滔々と語りだす。
「どんなに綺麗な人を見ても、花を見ても、映画を見ても、みんな色褪せて見えるんだ。」
はいはい。ズズッ、とコーヒーを啜る。
「かわいくて、素直じゃないけど、またそこがかわいくて。心の根は優しくて、かわいくて…とにかくかわいいんだ!」
エキサイトしてきたみたいだ。…唾をとばすな。
「好きで、好きで、夜も朝も、昼も、夢の中でも、ずっと、考えてて…俺は!押し倒して!組み敷いて!それで」「わかった、わかったから。」段々生々しい話になってきたので俺は杉田を制した。立ち上がって、杉田に近づく。

「だからー、告っちまえよ」
ぽん、と杉田の肩に手を置く。
「ん…なんだ、おまえ、いいヤツ、だし。なんとかなるって」
悪友のような杉田を褒めるのに羞恥心が邪魔をしたが、俺は素直な気持ちを言った。
杉田が俺を見上げる。
「…本当か?」
「ああ、ほんとほんと」
しばらく何かを考えているようだったが、唐突に顔を上げた。
腹を括ったらしい杉田は続ける。
「言う、言うぞ俺は!」
おーよし、がんばれよ。なんて適当に言った俺の肩を杉田はがしりと掴んだ。

「…中村!好きだ!俺と付き合ってくれ!」

よかったな、言えたじゃないか、ストレートで男らしくて、いいんじゃないか、その…こくは…く……あれ?え、…は?
悠一はぽかりと開いた口が塞がらない。
その空洞は必死に新鮮な酸素を求める。
今、こいつは、何と

「好きなんだ、中村」

ぐいっと引き寄せられ抱きしめられる。
行き場を失ったマグカップが傾く。

コーヒーは、無情に、零れた。
法則、に逆らえず、零れた。

かわいい、好きだって、組み敷きたいって…………えええ
開いた口はまだ塞がらない。
混乱で混沌とした部屋の中で、杉田だけが満足そうな顔をしていた。



(男は誰でも恋をしている時は詩人だ。)
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