†NOVEL†

□†雨†
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―――ザァァ…

雨音が響く。
響くのは、君の文字を書くさらさらとした音と、雨の音。









―――雨―――









雨の日は、どうも塞ぎ込んでしまいがちになる。
静寂の中に響く雨音は、張り詰めた神経を優しく慰めてはくれない。
不安要素の中に、確かな焦りを植えつける。
それはきっと、遥か昔に起きた大洪水を連想させるからか…。
優しいはずの雨の音は、僕の気持ちを不安にさせるばかりだ。

『はぁ…。』

零れるのはため息ばかりで、こんなときばかりはリーバー君を怒らせるようなことは出来ない。
静かに司令室に篭って、山のように積み上げられた書類に目を通し、無心なるためにペンを動かす。
それでも、意識は逸れてしまって、仕事にすら集中できないでいる。

『…はぁ…。』

こんなことじゃいけないのに。
こんなことで不安になってはいられないのに。
戦地へと向かうエクソシストやファインダーの方が、余程不安は大きい。
死と隣り合わせの緊迫した状況下、室長である自分がこんなことでは示しが付かない。
安全な空間にいて、相手にするのは彼らが集めてきた情報。
使うのは肉体でなく、頭脳。
肉体的疲労はあっても、彼らのように痛みを感じることは無い。

『はぁ…。』

そんなことは分かっているのに、どうしてこんなにの不安になってしまうのか。
情けなさすら感じて、思わず強く唇を噛み締めた。

『室長?』

雨音ばかりが響いていた空間に、良く知った心地いい声が木霊した。
顔を上げると、湯気の立つマグカップを手にしたリーバー君がいた。
その顔は、ここのところの激務で少しやつれた気がする。
けれど、強い輝きを放つ瞳は、数日前と変わらない。
決して折れることを知らない、弱音を吐くことのない、強い瞳だ。


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