≡私があなたを選びました≡
作者・鮫島 浩二


おとうさん、おかあさん、あなたたちのことを、こう、呼ばせて下さい。

あなた達が仲睦まじく結びあっている姿を見て、
わたしは地上におりる決心をしました。
きっと、わたしの人生を豊かなものにしてくれると感じたからです。

汚れない世界から地上におりるのは、勇気がいります。

地上での生活に不安をおぼえ、途中で引き返した友もいます。
夫婦の契りに不安をおぼえ、引き返した友もいます。
拒絶され、泣く泣く帰ってきた友もいます。
あなたのあたたかいふところに抱かれ、今、わたしは幸せを感じています。

おとうさん、わたしを受け入れた日のことを、あなたはもう思い出せないでしょうか?
いたわり合い、求め合い、結び合った日のことを。
永遠に続くと思われるほどの愛の強さで、わたしをいざなった日のことを。
新しい【いのち】のいぶきをあなたがふと、予感した日のことを。

そうです、あの日、わたしがあなたを選びました。

おかあさん、わたしを知った日の事を覚えていますか?
あなたは戸惑いました。
あなたは不安に襲われました。
そしてあなたは、わたしを受け入れてくださいました。

あなたの一瞬の心のうつろいを、わたしはよく覚えています。
つわりのつらさの中でわたしに思いをむけて、自らを励ましたことを。
わたしをうとましく思い、もういらないとつぶやいた事を、わたしの重さに耐えかねて、自分を情けないと責めたことを、わたしはよーく覚えています。
おかあさん、あなたとわたしは一つです。

あなたが笑い喜ぶときに、私は幸せに満たされます。
あなたが怒り悲しむ時に、私は不安に襲われます。
あなたが憩いくつろぐ時に、私は眠りに誘われます。
あなたの思いは私の思い、あなたと私はひとつです。

おかあさん、わたしのためのあなたの努力を、私は決して忘れません。
お酒をやめ、タバコを避け、好きなコーヒーも減らしましたね。


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