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□別に照れてるわけじゃない
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男は私を食べないと言った。少し落ち着いた私は、ゆっくり口を開いた。

「普通に考えて、いつか自分を食べるかもしれない相手をそばに置くはずないでしょ」

「ええ、まあ、そうですね」

「あんたにも事情があるかもしれないけど、私だって死にたくないもの」

男は何も言わない。そして諦めたようにもう一度ため息を吐いた。

「…確かにあなたは美味しそうですが、僕も恩人の身内に手を掛けるのは本意ではありません」

そして私の頭にぽん、と手を置いた。

「しかし僕も狼ですから仕方ありません。どうしてもお腹が空いたときはあなたのそばを離れましょう」

ぽん、ぽんと男は優しく私の頭を撫でる。

「おばあさんの留守中は僕があなたの身を守る。それでいいですか?」

私が顔をしかめると、男は私の前に紙きれを差し出した。それは私がこの家に来たときに破った、ばあちゃんからの手紙だった。
確かにばあちゃんがいない間、この空き家を守るにしても、先ほどの熊然り、この周りは何かと物騒だ。
私が睨んでも、男は微笑んでいる。さっきまでの獣の顔とは全然違う、穏やかな笑顔だ。
今度は私がため息を吐いた。

「……ばあちゃんが帰ってくるまでよ。……今度手を出したら許さないからね」

私の返事を聞くと、男は少し笑いながら「はい」と言って頷いた。

「それにしても」

「?」

「あなたは本当に強がりですねぇ」

「!!!」

あはは、と笑う男に腹が立って、せめてもの抵抗で布団を投げてやる。「おぶっ!」というくぐもった声が聞こえた。

いくらこいつが狼でも、おびえて下手に出たりするものですか!涙が乾くと私はまたいつものように強気に言い放った。

「勝手に迷惑な約束しといてそれに協力してあげるんだから、そこんとこちゃんとわきまえなさいよ!」

ずり落ちた布団を抱えて、男は苦笑いする。

「わかりました」

「フン」

ケホ、と噎せる男にそっぽを向く。本当に勝手な約束。厚意だとしてもありがた迷惑だ。

だけど。

「…でも」

小さく呟いても男には聞こえたらしい、反応する。

「熊から助けてくれたのは…本当だから。それは……ありがと」

男がきょとんとしている様子が伝わってくる。何だか恥ずかしくなってその場を去ろうとすると後ろから小さく笑い声が聞こえた。

「あなたは素直じゃありませんねぇ。でも、とてもかわいらしい人だ」

「!!!」

くるりと振り向いて男と向き合う。

「…か、かっ、…かわいらしいとか言うなああああああ!!!」

手当たり次第物を投げつければ、ぎょっとした男は部屋の中を逃げ回る。

こうして私と狼男の契約が成立したのだった。

20120216


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