Clap log
□泊まる
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無断外泊。一般の少年少女が許されても、それが私に許されるわけがない。そもそも無断外出が許されていない。その上外泊なんて、これはもう完璧に自殺行為でしかない。
私は今、自分で自分の首を締めている。そう感じていた。
「とりあえずお前はそのままそこで寝てろ」
どうしたって帰りたかったけど、この嵐ではベラは走れないし、何しろ道がわからない。一応恩人であるこの男にこの嵐の中城まで案内してくれとはいくらなんでも言えないし、身分がバレかねない。帰れないことがわかって愕然とする私に、男はベッドを薦めて部屋を出ていった。
「姉様に…何て言えばいいの……」
帰ったら姉様の冷たい氷のような雷が落ちるんだろうなぁ。頭がぼーっとして、うまい言い訳が思いつかない。
「もう、やだ…」
毛布に頭を埋める。もう現実逃避するしかない。どうせ明日まで帰れないんだから、悩んでも仕方ないんだし。
はぁ。ひとりため息を吐いていたら、部屋の扉が開いた。
「おい」
声をかけられて布団から顔を出すと、そこにはびしょ濡れになった男が立っていた。
「風呂炊いたから入れ」
「…ふろ?」
あ、湯浴みか。一瞬遅れて理解した私は固まってしまった。
「え、湯浴み!?」
「“湯浴み”だぁ?」
訝る男の反応に私ははっとした。言葉遣いが変だったかな。
「いや、お、“お風呂”…よね?えーと、私は大丈夫だから…」
「大丈夫じゃねぇよ。お前雨に打たれて気失ってたんだぞ。普通の人間ならとっくに熱出してるだろ」
「ま、まぁ……」
「すぐに体は温めておいたが一応湯に浸かっとけ。風邪ひくぞ」
男は入り口近くに置いてあるクローゼットから厚手のタオルを出すと、私目掛けて投げつけた。
「ぁぶっ!」
もろに顔に当たって変な声が出る。文句を言おうとタオルを剥ぎ取れば、男が目の前にいた。
「うわっ!えっ!?」
「ほら、ぐずぐずすんな」
ぐいっと手首を引っ張られて無理矢理立ち上がらせられる。
「ちょ、っと…!」
もつれる足でついていけば、男は私を部屋から連れ出した。そしてすぐ左にあった扉を開けると、タオルを持ったままの私をそこに押し込んだ。
「着替えはあとで置いておくからちゃんと温まれよ」
男の方を振り向くと、有無を言わさずにバタンと閉められた扉。遠ざかる足音に私はぽかんとしてしまった。
ゆっくり振り向くと刷り硝子がはめ込まれた扉がある。今私がいるのは脱衣場のようだ。
ちらりと入り口の扉を見ると、ドアノブの下にはちゃんと鍵がついていた。カチャン、と鍵を捻ると私はもう一度刷り硝子のついた扉の方を向いた。
どうしたらいいんだろう。過去に一度会っているとはいえ、素性のわからない男の家でお風呂に入るというのはいかがなものだろうか。世間に疎い私でもさすがにそれくらいの常識はある。でも正直体も冷えてきた。本音をいえば温かいお湯に浸かれるのは魅力的だし。
…鍵はちゃんとかけたしなぁ。いいかなぁ。
浴室につながっているであろう扉からもれる湯気が早くおいでと私を誘う。
えーい、ここまできたんだ!ぱっと入ってぱっと出よう!
そう思って衣服に手をかけた瞬間。
「………?」
感じたのは違和感。衣服の感触が……。
バッと自分の身に着けているものを見る。私は青ざめた。