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それは手だった
乾いてくしゃくしゃのしわだらけの手だ
誰なのかと尋ねようにも恐怖で声が出ない
「お嬢ちゃん
よぉくお聞き」
アリスの耳元で手の主が喋る
手と同じく乾いてしゃがれた老婆の声だ
「あたしゃこの森で永らく番人をやっているんだ」
老婆がにやにや笑っているのが気配でわかる
楽しそうに喉を鳴らしている
耳元の老婆の低い低い声がアリスは怖くて怖くてたまらない
「客人でもないのにお嬢ちゃんはどうしてこの森に入って来られたのかね
ここは欲に溺れた者や道を踏み外した者が迷い込んでくる森なのにね」
老婆がクツクツと音を立てて笑う
「それにしても番人のあたしに黙ってこの森に入っちゃいけないね」
アリスの顎を掴む老婆の手に更に力が加わり
長い爪がアリスの肉に食い込む
「あたしゃここを通るもんから通行料を貰っていてね
お嬢ちゃんからも貰おうじゃないかね」
「私…お金持っていないわ」
アリスはか細い声でやっと返事をした
「お金はいらないよぉ」
老婆が笑う
「頭を置いてきな」
力はますます強まり食い込んだ爪を伝い朱い雫が滴う
もうこれは普通の老婆の力では無い