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□いい加減離れてください
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心臓が早鐘のように鳴っている。狼さんは私の反応が面白いのか、こちらの顔を覗き込むようにして笑った。
「…っ、笑ってんじゃねェェェェエ!!!」
私の拳が狼さんの腹部に華麗にヒットして、短く「うぐっ」という声がもれた。予想外のことだったらしく、ぴくぴくしながらソファにうずくまる。
「い、いいいいきなり何すんのよ!ばか!ばかばかばか!あんぽんたん!」
「あ、あんぽ……?あの、だから、普通に、愛情表現で…」
あたりどころが悪かったらしい。狼さんは痛そうに、丸くなりながら答えた。
「あれの!どこが!普通なのよっ!?」
「いや、狼は、そうなんですよ」
「はぁ!?」
「狼は、好意を示すとき、相手の顔や耳を舐めたり、噛んだりするんです」
「…なっ、舐め!?」
「はい。狼なりの、コミュニケーション、です」
ようやく回復したらしい狼さんがゆっくり身体を起こせば、さっきの怪しい笑顔は消えていて、もういつものほんわりした、優しい笑顔だった。
どきり。
「………、に」
「に?」
「…にっ、人間、は!コミュニケーションで!あんなことしないの!」
「はぁ」
「はぁ、じゃない!」
「でも、僕は狼なので」
「私が人間なんだっつーのォォ!!!」
とぼけたような答えにキレた。すると狼さんがむすっとした。
「赤ずきんさんは、嫌いなんですか?」
「…は?嫌いって、何が?」
「僕のことです。赤ずきんさんは、僕が嫌いですか」
「なっ…!え、ちょ、な、なんでそういう話になるの!?」
「だって嫌なんでしょう」
不服そうな顔で私をじっと見つめている。
え、これ………拗ねられた?拗ねられたのか?
「それと、これとはまた、」
「違いません。どうなんです?僕のこと、嫌いなんですか?」
ぐい、と身を乗り出して、またもや近付く距離。
なに、何、このかんじ!
「赤ずきんさん」
「いっ、いや、嫌いってわけじゃ、ないけど、さ」
ぐぐぐ、と徐々に詰め寄る狼さんに負けて、慌てて答える。
「ほんとですか」
「ほ、ほんと!だからちょっと離れ…」
「嫌じゃありませんか」
「嫌じゃないからっ、とりあえず…」
「そうですか。じゃ、遠慮なく」
ぺろり。
「だからそっちは嫌だっつってんだろォォォォォォオ!!!!」
20130928