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□ただの愛情表現
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狼さんの指が触れるか触れないかというぐらいで私の頬を撫でる。そのまま軽く唇を掠められて、私は一気にかぁっと顔が熱くなるのを感じた。
何か言おうとするも、狼さんの射抜くような視線に言葉が詰まってしまう。そうこうしていると、ふいに狼さんの指が私の唇をとらえた。
ふに、と、軽く唇を押されて、どうしたらいいのかわからない。その手を払うなり押し退けるなりすればいいのに、私の頭はとっさのことにぐるぐる回っているばかり。
べろり。突然、唇のすぐ横、口元を舐められる。
「っ!」
ぞわぞわっと背筋が粟立つ。なに、これ。いったい、どういうこと。
そのまま何度も口の横を舐められて、私はさすがに押し退けようと彼の胸に手をあてた。
「ちょ、っと、ね、何すん、のっ!」
「ん。あれ。知らないんですか?」
「ゃめ、な、にが?」
ざらついた舌の感触に、いちいちびくっと肩が跳ねてしまう。狼さんはそれが面白いのか、くつくつと喉を鳴らして笑いながら私の肩に手を回した。
次の瞬間、ぐいと肩を引き寄せられて、耳元に唇が宛がわれる。
「狼の愛情表現は、口でするんですよ」
耳に捩じ込まれた低音に、目を見開く。途端、耳をがぶりと噛まれた。
「ぃっ、たぁ!」
そっとやさしく添えられた手が、私の喉元を撫で上げる。けど、そんなの気にしていられない。彼が私の左耳をあぐあぐと甘噛みしている。
「甘い…」
「!!!」
思わずはっとした。強過ぎず、弱過ぎず、時折耳を掠める彼の熱い舌と触れる吐息に、頭の中で警鐘が鳴り響く。甘い?私、食べられてる?いや、違う。ただの味見?ううん、それもなんか違う。でもいやだ、いやだ、こんなの。このままじゃ、だめ。肌が粟立って、咄嗟に腕を抱える。いや、だ!
「ほん、とに、やめ、て!」
ぐいっと渾身の力で胸を押し返せば、今度こそ身体が離れた。
狼さんが、赤く濡れた自分の唇をぺろりと舐める。
「ただの、愛情表現ですよ?」
そうして、妖しく、笑った。
20130907