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□獣の仕組み
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「あ、」

突然声をあげると、狼さんの私を撫でる手が止まる。私が勢いよく立ち上がると、今度は椅子に座る狼さんを見下ろす形で問いかけた。

「ねぇ、確認しておきたかったんだけど、なりたいときに狼の姿になることってできるの?」

狼さんは目をぱちぱちさせると、頷いた。

「えぇ。一応は」

「そう…」

「ただし、日に何度も、というわけにはいきませんが」

狼さん曰く、姿を変えるのにはそれなりに体力を消耗するらしい。


狩人さんには動物を診てもらうつもりで話したのだから、今の人の姿のまま会わせるわけにもいかない。

しかし、昨日の別れ際の言葉を聞く限り、野生の狼の姿のまま会わせるのもそれはそれで危険な気がしてきた。

…どうすればいいのだろう。

「それから、たまに思わず姿が戻ってしまうというか、変わってしまうこともありますね」

「え?…どういうこと?」

「たとえば、身に危険を感じたときや弱ってるとき、エネルギー不足のときなど生命維持の本能が働いたときは、体力温存、環境適応のために効率のよい姿になります」

「…えー…っと、それはつまり、」

「平たく言えば、ピンチなときには勝手に姿が変わるということです」

「…なるほど」

なるほど、とは言ってみたが正直狼さんの言っていることはピンとこないというか、よくわからなかった。確かに目の前で姿が変わるところは見たけれど、未だに変な心地がする。

狼人間の噂は昔から耳にしたことはあった。けど、目の前にいる人が本当に獣だなんて。だけど今も狼さんの頭の上でぴくぴくしてる灰色の耳、それから後ろで揺らめいているしっぽ、あれらは紛れもない本物だ。今はやさしいけれど、あの瞳に秘められた鋭さを、私は、この目で見たのだ。

まぁ、要は狩人さんの前で姿が変わってしまわなければいいんだけど。

あぁ。なんだか気が重くなってきた。

「何か心配事でも?」

私のついた大きなため息に、狼さんは心配そうに尋ねた。

「あのさ、もうひとつ聞きたいんだけど」

「はい?何ですか」

「…狩人に命狙われたことってある?」

狩人。その言葉を聞いた途端、狼さんの眉が寄る。

「まぁ、一度や二度は、ありますね」

…あー、もう一体どうしよう。

20130314

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