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□痛いの痛いのとんでいけ
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狩人さんを見送ってから家を出た頃にはちょうど昼を回っていた。狼さんには来なくていいと昨日もう一度念を押しておいたけれど、彼のことだ、どうせ来ているんだろう。
案の定、狼さんは家の玄関の前に座っていた。
私がため息をつくと、彼は私に気づいて顔をあげた。
「こんにちは」
「あなたも懲りないわね…」
ひょこりと立ち上がった彼にもう一度息をつく。玄関の扉を開けて入るように促すと、彼は「ありがとうございます」と微笑んだ。まったくこの狼は本当に律儀だ。
「ねぇ、明日もどうせ来るんでしょ」
淹れたお茶を差し出して尋ねると、彼はそれを受け取って「えぇ、まぁ」と答えた。
「足、見せて」
「え?足ですか?」
「そう。足。ほら、見せて」
狼さんが靴を脱ぐと、腫れこそおさまったものの青く痣になった足首が見えた。
「ねぇ、私が言った通りちゃんと冷やした?」
「はい。一応」
うーん。仕方ない。素人にはこれ以上どうしようもないし。やっぱり連れてくるかな。早い方がいいし。
「ねぇ、明日あなたを診てもらおうと思って人を頼んだの」
「え?」
「うちが昔からお世話になってる人で、怪我した動物くらいなら診れるっていうから、明日連れてこようと思うの。いいでしょ?」
「え、いや、いいですよ、そんな!」
「まぁ一応確認のために聞いてるだけで許可をもらうつもりはないんだけど。あなた医者にかかる気ないみたいだし」
「いや、本当に大丈夫ですって!」
「私が大丈夫じゃないの!」
狼さんがきょとんとする。
「そんな怪我されて、私が平気じゃないの…」
椅子に腰かける狼さんの足元にしゃがむと、痛々しそうな足首に手を伸ばす。青く痣になったそこに触れるのは憚られたけど、恐る恐る指で触れる。ひやりとして硬い肌の感触。やはり 痛いのだろう、一瞬頭上で息を呑んだのが聞こえて、ゆっくりやさしくそこを指でなぞった。
「小さい頃、よく私が怪我をするとね、母さんがおまじないをかけてくれたの。痛みはちっともよくならないのに、なんだかほっとしたのを覚えてる」
くるくると円を描くようにやさしく撫でる。私にはこの怪我を治せないから。
「…赤ずきんさんは本当に優しい人ですね」
ゆっくりなぞっていると、ふと上からぽつりと呟いたのが聞こえて、はっとする。
「そ、そんなんじゃないけど!私は別にっ…」
慌てて否定しようと顔を上げようとすると、ぽん、と頭の上に手が置かれた。そのままおでこの前髪のあたりをゆっくり撫でられる。
ぽかんとしてしまった私をよそに、狼さんは私の前髪の乱れを直す。
「あなたがそこまで言ってくれるのですから、大人しくお世話になりましょう」
ねっ。そう言って首を傾げる彼に、私はなぜか顔がかぁっと熱くなるのを感じた。
20130303