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□頼みごと
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「診てもらいたい人がいるの」
「診てもらいたい人?」
不思議そうにする狩人さんに、私は頷いた。
「赤ずきん。俺は医者じゃないんだから、人間は診察できねぇよ」
「でも人間は無理でも、ケガした動物の手当てくらいは出来るでしょ?」
「あぁ、まぁな。動物なら…」
「じゃあ問題なし!」
「は?」
狩人さんは話がつかめていないらしい。
「…だけどちょーっと訳アリなのよねぇ」
「おい、赤ずきん。わかるように説明しろ」
そんな狩人さんを置き去りにして、私は頭の中で一人段取りを進め始める。
するとそのとき、玄関の扉が開いた。
「ただいまぁ」
「あ、母さん。おかえりなさい」
「あらぁ、狩人さんじゃないの。今日はいいお天気ねぇ」
のほほんと挨拶をする母さんに、狩人さんも席を立って頭を下げた。
「こんちは。今日はこの間いい鹿肉が穫れたんで、それを届けにきました」
「まぁ、そうなの。わざわざ悪いわねぇ。今買い物に行ってきたところなの。これからお昼ご飯作るから、よかったら食べて行ってね」
「あぁ、すみません。実はこのあとちょっと親方と狩りに出なくちゃいけなくて」
「あら、忙しいのねぇ」
「すみません」
残念がる母さんに頭を下げて、狩人さんは玄関に向かった。
「狩人さん」
「とりあえず明日の昼にまた来る」
見送るため玄関の外に出ると、突然こちらを振り返って私の頬をつまむ。
「いたっ」
「ゆっくり話せなくて悪かったな。とりあえず明日、ちゃんと説明しろよ」
「うぁ、はーなーせー!」
「ぶっさいくだなぁ」
狩人さんが私の顔を見て笑った。睨みつけると彼はあしらうように「はいはい、嘘。かわいいかわいい」と頭を撫でてくる。いつも子ども扱いするんだから!
帰ろうとして、狩人さんは突然思い出したように声を上げた。
「あぁ、そうだ。最近野生の狼が出るらしいから気をつけろよ」
「え?」
ドキリとして目をぱちぱちさせると、狩人さんは眉を顰めた。
「森で目撃情報があったらしい。詳しいことはわかってないらしいが、危ないからあんまり一人で出歩くなよ。いいな?」
そう告げると、狩人さんは街へ帰って行った。
ふいに、猟銃を構えて狩りをする狩人さんが頭に浮かぶ。
「……治療、頼むんじゃなかったかな…」
私は若干不安に思いつつも、気にしないようにして家に戻った。
20130226