long

□頼みごと
1ページ/1ページ


「診てもらいたい人がいるの」

「診てもらいたい人?」

不思議そうにする狩人さんに、私は頷いた。

「赤ずきん。俺は医者じゃないんだから、人間は診察できねぇよ」

「でも人間は無理でも、ケガした動物の手当てくらいは出来るでしょ?」

「あぁ、まぁな。動物なら…」

「じゃあ問題なし!」

「は?」

狩人さんは話がつかめていないらしい。

「…だけどちょーっと訳アリなのよねぇ」

「おい、赤ずきん。わかるように説明しろ」

そんな狩人さんを置き去りにして、私は頭の中で一人段取りを進め始める。

するとそのとき、玄関の扉が開いた。

「ただいまぁ」

「あ、母さん。おかえりなさい」

「あらぁ、狩人さんじゃないの。今日はいいお天気ねぇ」

のほほんと挨拶をする母さんに、狩人さんも席を立って頭を下げた。

「こんちは。今日はこの間いい鹿肉が穫れたんで、それを届けにきました」

「まぁ、そうなの。わざわざ悪いわねぇ。今買い物に行ってきたところなの。これからお昼ご飯作るから、よかったら食べて行ってね」

「あぁ、すみません。実はこのあとちょっと親方と狩りに出なくちゃいけなくて」

「あら、忙しいのねぇ」

「すみません」

残念がる母さんに頭を下げて、狩人さんは玄関に向かった。

「狩人さん」

「とりあえず明日の昼にまた来る」

見送るため玄関の外に出ると、突然こちらを振り返って私の頬をつまむ。

「いたっ」

「ゆっくり話せなくて悪かったな。とりあえず明日、ちゃんと説明しろよ」

「うぁ、はーなーせー!」

「ぶっさいくだなぁ」

狩人さんが私の顔を見て笑った。睨みつけると彼はあしらうように「はいはい、嘘。かわいいかわいい」と頭を撫でてくる。いつも子ども扱いするんだから!

帰ろうとして、狩人さんは突然思い出したように声を上げた。

「あぁ、そうだ。最近野生の狼が出るらしいから気をつけろよ」

「え?」

ドキリとして目をぱちぱちさせると、狩人さんは眉を顰めた。

「森で目撃情報があったらしい。詳しいことはわかってないらしいが、危ないからあんまり一人で出歩くなよ。いいな?」

そう告げると、狩人さんは街へ帰って行った。

ふいに、猟銃を構えて狩りをする狩人さんが頭に浮かぶ。

「……治療、頼むんじゃなかったかな…」

私は若干不安に思いつつも、気にしないようにして家に戻った。

20130226

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ