long
□お菓子とお勉強
1ページ/1ページ
「薬草を煎じて塗る…?」
私が首を捻っていると、コンコンと音がする。玄関に振り向いて扉を開けると、そこには見慣れた姿があった。
「狩人さん!」
「よっ!」
短く刈り上げた髪に日焼けした肌。太陽みたいなにかっとした笑顔で、彼は私の髪をわしゃわしゃと撫でた。
「元気にしてっかー?」
「おかげさまでね!って、ちょっと!ぐしゃぐしゃになっちゃう!」
「ははっ、悪ィ悪ィ。今日はいい鹿肉がとれたから持ってきたぜ。母ちゃんいるか?」
「もう!母さんは今街に買い物に出てるからいないよ。帰ってくるまで時間があるから私がお茶でも淹れたげる!」
狩人さんの手をぺしっと叩いてべーっと舌を出すと、彼は「ごっそーさん」と言って笑った。
狩人さんを家にあげてキッチンに行くと、棚からカモミールティーの茶葉が入った缶を手に取る。カモミールティーが好きだなんて、見かけによらず可愛い好みだ。沸かしたばかりのお湯を入れて少し蒸す。カップに注いでクッキーと一緒に狩人さんの目の前に差し出す。
「召し上がれ」
「へぇ、お前が焼いたのか?」
「そう。上手いもんでしょ」
「この間まで焦がしてた奴がよく言うよなぁ」
「…ねぇ。喧嘩売ってんなら買ってもいいんだけど?」
「遠慮しとく」
私たちはすぐにお互い笑い合った。
でもまぁ、実のところ本当に最近やっとまともにクッキーが焼けるようになってきたのだ。それまでは何かしら失敗していた。焼き上がりが甘かったり焦がしたり。塩と砂糖を間違えたときは、あまりにベタすぎてちょっと泣きたくなった。
もう少し上手く焼けるようになったら、狼さんに持っていってもいいかもしれない。甘いもの、好きかな。
「赤ずきん。お前医学書なんか読んでんのか」
持っていくお菓子のことを考えていると、狩人さんに話しかけられる。一瞬何のことかわからなかったが、すぐに思い出した。
「あぁ、そう。ちょっとね」
狩人さんが来る直前まで、私は医学書を読んでいた。専門的じゃない、家庭にあるようなものだけど。
「何。お前どっか悪いわけ?」
「え?…あぁ、まぁ、それはそうなんだけど…」
私の膝なんかより、狼さんの足首だ。どうしたら早くよくなるのか。
「あ」
そうだ。
私は勢いよく前にのめり出すと、訝しむ目の前の狩人さんをまじまじと見つめた。
「ねぇ。ちょっとお願いしたいことがあるの」
20130216