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□嗅ぎたくなるのです
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男の唇が私の耳元にぐっと寄せられる。触れはしないけど、熱い吐息を感じる距離。
「あなたにこうして触れていると、酷く心地がいい」
「…そっ、れは、食糧として…ってこと?」
「…わからない。ただ、腹は減っていません。あなたを食べたいとは思わない。……いや、やはり食べてしまいたいのかもしれないが」
「……?」
男がそっと、囁いた。
「…もう少しだけ、あなたに触れてもいいですか?」
「!!?」
「あなたは、とてもいい香りだ。……嫌ですか?」
「い、嫌、っていう…か…」
触れてもいいかと聞かれて、はいどうぞとは言えない…。
ていうか普通女の子にそんなこと聞く!?
「私にはもう触れないんじゃ…」
「そこまでは求めていないと、おっしゃったじゃありませんか」
「い、言ったけど……!」
男の声が心無し、しゅんとする。狼というよりもむしろ……犬っぽい。
「…僕のこと、まだ信用できませんよね…」
「いや、別に信用してないって言いたいわけじゃ…!」
ずるい。それを言われると、痛い。
言いよどむ私に、男がくすっと笑った。
「あなたのこと、食べたりしませんから。
ね、赤ずきんさん」
「………っ!」
耳に熱い唇が触れて、言葉を押し込むように囁かれた。
男が私のこめかみに鼻を押し付けて、深く息を吸い込む。
「……はぁ……」
「…っ!!!」
男の熱い吐息が私の頬にかかる。
そのまま男は私の首筋に頭を埋めて私のにおいをすんすんと嗅いだ。それはまるで犬………いや、こいつは狼だった。
「あなたの香りに……酔いそうになる…」
「ちょ、やめっ、くすぐった……!」
ぞくぞくっと背筋を這い上がる感覚。たまらず背中が反って、男を押し上げるように胸が潰れてしまう。
心臓がどくどくと高鳴る。これは命の危険を感じているから?それとも……
べろり
「ひっ!」
ざらざらとした舌が首筋を舐め上げた。
熱い、熱い。心臓が、ばくばくうるさくて、壊れそう。
「ひゃ、ねぇ、待っ…」
「ん…、赤ずきんさん……」
「…っ、調子に、……乗るなぁぁぁぁあ!!!」
ゴッ!
「ぶふっ!!!」
堪えきれず、思い切り横に向かって頭突きをくらわした。にぶい音を立てて男が撃沈する。
余程痛かったのか、若干ぷるぷると震えている。
「………舌、噛みました…」
「知らない!自業自得よ!ばかっ!」
20120624