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□予期せぬハプニング
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翌朝も男は変わらず、ばあちゃんの家に来た。

「おはようございます」

「……おはよう」

男の態度は昨日までと変わりがない。

「怪我の具合はどうですか?」

「あ、あぁ…別に、大丈夫」

「そうですか…」

しかし、私の方は気まずくて、目に見えて態度がそっけなくなってしまうのが自分でもわかった。それが向こうにも伝わったようで、男もそれから口をつぐんでしまった。


***


今日は、昨日で終わりきらなかった場所の掃除の続きをすることにした。男はこちらが言いだす前に、裏庭の草むしりをしてきます、と言って裏口を出て行った。

「……よしっ。やるか!」

気合いを入れ直して、書斎に向かう。ばあちゃんは本を読むのが好きだったし、じいちゃんのものもあるせいで書斎には本がいっぱいだった。
私は張り切って腕まくりをすると、バケツの雑巾の水を絞って掃除を開始した。


***


「…ふぅ!」

机や椅子、棚や床など雑巾がけをして随分きれいになった書斎を見回して、満足げに息を吐く。思ったより拭く箇所が多くて、早くも腕と足が疲れてしまった。
休憩がてら、本の背表紙を眺めているうちに、ふと本棚の上に目がいく。
ばあちゃんは割ときれい好きな方だったけど、さすがにあの歳で高い本棚の上までは掃除ができなかったのだろう。見上げると埃が積もっているのがわかった。
あともう一踏ん張りか。椅子を脚立代わりにして乗ると、背伸びをしながら本棚の上の埃を拭く。
するとぶわりと埃が舞い上がり、思いがけず吸い込んでしまった。

「けほっ、けほっ…!」

大きく噎せ込んで、治まらない。苦しくて目にうっすらと涙が滲む。

「どうしました?」

突然背後から声がした。私が咳き込むのを聞きつけたのか、書斎の入り口には男が立っていた。男は振り向いた私の様子を見て、目を見開いている。
私は男が突然現れたことに一瞬動揺して、思わず後ずさった。瞬間、ガタッと椅子が音を立てて傾いた。

「っ…!」

とっさに目の前にあった棚の部分を掴む。しかし、掴めたのはよかったが、掃除のためにいくらか本を抜いてあった本棚は、引っ張られてぐらりと私の方へと傾いた。

「危ない!」

男が叫んだのと同時に、私は本棚と一緒に後ろへ倒れた。

20120623


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