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□背中で思うこと
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男に膝の傷周りをきれいにされた私は、そのままなぜか男の背中に乗せられ、抵抗するも結局は男におぶさる形になってしまった。

「歩けるって言ってるのに……!」

「貴女は怪我をしてるんですから、背負われて当然です」

「…ただのかすり傷だし」

「それでも歩くより楽でしょう」

「………」

こうするのがさも当たり前だと返されて、私は押し黙る。男は私が教えた家の方角に向かってゆっくり歩き出した。

背負われて男との距離が近くなることに一瞬怯えたけど、何もしてこないだろうということがわかって少し安心する。まぁいっかと半ば投げやりになって、なるべく体が密着しないように気をつけながらも体重を預ける。
思わず、はぁ、と小さく息を吐いた。

「痕が遺らないといいですね」

「え?」

「女性ですから、肌に痕は遺らない方がいいでしょう」

私は思わず目をしばたかせてしまった。
すると返事をしない私を不思議に思ったのか、男が立ち止まって振り返る。

「?どうかしましたか?」

「え、あ……」

「あっ、もしかして傷が痛みますか?」

「だ、大丈夫!…何でもないから、歩いて」

少し気まずくて俯く。男は再び歩き出した。

この人はよく私を女の子扱いするな、と思った。
前にも女の子として魅力的だとかかわいらしいだとか言われた気がする。

私にだって普通に男の子の友達はいるし、女の子として扱ってはもらえるけど、こんなに紳士的に接してくる人は初めてかもしれない。まぁ、私を食糧として舐めてくる奴を紳士的と言えるかはちょっと微妙だけど。

……でも、やっぱり優しいよなぁ。
目の前の男を改めて見てみて、そう思った。

そうだ。思えば今日だって約束を守って私の様子を見に来たし、部屋の片付けだって手伝ってくれた。今もこうして、怪我した私をおぶって家まで送ってくれている。
もちろん疑おうと思えばいくらでもできる。実は餌の私が逃げないか毎日見張りに来てるだけとか、片付けだって優しくしてみせて私を油断させるためとか、今も私の家の場所を探るため、とか。
疑える。疑える、けど…

「あぁ、疲れてたら気にせず眠ってくださいね」

もっとも僕の背中じゃ安心できないかもしれませんが、と男は苦笑する。

何となく。
何となく、私はこの男を疑う気にはなれなかった。

20120523


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