-花と緑の[外伝]-
□のちの花と緑の 〜つわものどもがゆめののち〜
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【ロード・トゥ・バロン】
-sequel of Nise-Dorimogemon-
「随分と世話になった」
口元にたくわえた凛々しい男爵髭を揺らし、ニセドリモゲモン――男爵は頭を下げる。バタフラモンはぱたぱたと手を振り、
「いいえ、とんでもございません。むしろ、もう少しゆっくりされていかれたほうが……」
と、心配そうに男爵の顔を覗き込む。
それは勇者一行が魔神との激闘を繰り広げてから、しばらくの後。重傷を負った男爵は、バタフラモンが村長をつとめるここ、カイロゥ村で療養を続け、先日ようやく立ち上がれるまでに回復したばかり。
いまだ身体中に包帯を巻き、傷も塞がりきってはいないというに、彼は早々に村を発つと言い出したのである。
「お心遣い、感謝する。だが……」
空を見上げ、仲間たちに思いを馳せる。
ハナ、ヌヌと別れ、程なくしてツワーモンもハグルモンたちとともに村を発った。ややあってウィザーモンが「ハナ君は無事に帰ったよ」とわざわざそれだけを伝えに訪ねてきてくれたが、そんな彼も既に村を去ってしまった。
残ったのは自分だけ。満足に動くこともできなかったとはいえ、なんだか、仲間たちは前に進んでいるというのに、自分だけが取り残されたように思えた。
だから進もうと、そう思ったのだ。
「立ち止まってはおれぬ」
一度は悪に堕ちたこの身、それでも仲間と言ってくれた彼らに、そして勇者のくれたその名に恥じぬよう、今はただ、一歩でも前へと進みたい。
固い決意を湛えたその目を遥かな彼方の地平へ向け、男爵はカイロゥ村を出立する。確かな決意を、胸に抱いて。