□5周年リクエスト小説@
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◆U(1/3)

 気が付けば少女は、真っ白な砂浜に伏していた。
 長い黒髪を白浜に投げ出す様はまるで難破船からの漂流者のようだったが、その髪や服は濡れてもおらず、怪我の一つもしていなかった。
 ううん、と小さく唸り、少女は身を起こす。辺りを見回して、目をぱちくりとさせる。しゃり、と手が砂を掻く。夢、とは到底思えないリアルな触感。思わず握りしめた手を顔の前まで上げて、そっと開けば指の隙間から砂粒がさらさらと零れ落ちる。
 砂の感触。波の音。髪を撫でる潮風。すべてがこれ以上もなく現実味に満ちて、頬をつねるよりずっと確かにずっと痛いほど、これが現実の出来事なのだと少女に突き付ける。

「ここ、は……」

 だからこそ、尚のこと訳がわからない。街中にいたはずの自分がどうしてこんな砂浜にいるのかなんて。

「どこ……?」

 誰にともなく問い掛けた言葉は海風にさらわれ消えて、答えなど返ってくるはずもない。はずも、ないと思っていたのだけれど。

「さて、どこだろうな」
「ふぅうぇ!?」

 ざり、と砂を踏み締める音とともに聞こえた声に、少女はびくりと震えておかしな声を上げる。
 振り返ればそこには少年が立っていた。歳の頃は少女と変わらない、14、15歳といったところだろう。白いシャツと黒いスラックスは、暑い日差しの照り付けるビーチにはあまりに不釣り合い。眼鏡を指でくいと押し上げ、はあ、と溜息を吐く。

「えっとぉ……どちらさま?」

 少年の後ろ、海と逆側には鬱蒼としたジャングルが広がり、どうやらそこから出て来たようだが、そんな場所をうろつく服装にも見えなかった。
 少年は砂浜に座り込む少女を見て、ふむと唸る。

「君も、奇妙なメールを受け取ったのだろう」
「え? あ……うん、そう!」

 言われて、途端に記憶が鮮明に蘇る。

「そして暗闇でおかしな声を聞いた」
「そう! そうそう、それ!」

 人差し指をぴんと立て、じゃりじゃりと砂浜を這うようにして少年へと詰め寄る。

「で、気付けばここにいたと」
「そお〜なの! わ〜、もう訳わかんない! ねえ、ここどこ!? あなたは?」
「私も同じだ」
「同じ? ほぇ?」
「君と同じ経緯でここにいる。だから、悪いがそれ以上のことはわからない」
「あぅ! そうなんだ……」

 少年の言葉に少女は「ガーン」なんて効果音が聞こえてきそうな顔でわかりやすく肩を落とす。

「あ、ねえ、ここにいるのってあたしたちだけ?」
「いや? もう一人……」

 そこまで言ったところでジャングルへ目をやると、ちょうど同じタイミングで草木をがさがさと掻き分け、また別の少年が姿を見せる。
 歳はやはり同じくらいか。しかし眼鏡の少年とは随分とタイプが違った。長身に、トレーニングウェアのような服の上からでもわかる筋肉質。長い髪を髷のように結い、険しい表情を浮かべる。サムライみたい、というのが、少女の抱いた第一印象だった。

「木の上から見てみたが、やはりこちら側はどこを向いても海だ」
「他に人は?」
「見える範囲には誰も。いるとすればジャングルだが……」

 二人の少年は腕を組んでちらりと少女を一瞥し、小さく頷く。

「どうやら我々だけのようだな」
「ほえ? え、なんで?」
「君は自分の声の大きさを自覚していないのか」
「あ……あー、なるほど」

 あれだけ騒いでいまだ姿を見せないのだ。少なくともこの付近にいるのは自分たち三人だけ、と、少年たちの言わんとしていることを遅れて理解し、少女はぽんと手を叩く。

「あ、てゆーか、どこ向いても海って……ここ島なの?」

 少女が首を傾げて問えば、眼鏡の少年はジャングルの更に奥をくいと指差す。見渡すその先には高い高い、岩山がそびえ立っていた。

「あの向こうも海ならそうなるな」
「ほあー、なるほど……。あー、んじゃあ、えっと、とりあえず行ってみる?」
「簡単に言ってくれるな。随分と距離もある。着いたところで登山道があるようにも見えんが」
「そだけどぉ……でもここにいてもしょーがなくない?」

 自分の頬をぷにっと突いてもう一度首を傾げてみせた少女に、眼鏡の少年はふむと唸る。長髪の少年が腕を組みながら小さく頷く。

「……そうだな。埒が明かん」
「やれやれ、仕方ないか」

 
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