□5周年リクエスト小説@
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◆Y(1/1)

 気が付けばマリーは、知らない場所で立ち尽くしていた。
 薄く青みがかった白い空。真っ平らな同色の床が地平の果てまで広がっている。足元には踝が浸かるほどの水が張られ、マリーの前では、大きな蓮の葉の上で誰かが丸くなって寝息を立てていた。
 人ではなかった。肌は澄んだエメラルドグリーン。身体の所々にはヒレのようなものが生え、全体的な印象は水棲生物を思わせるが、四肢を持つその身体構造は人間そのもの。あえて呼称するなら“半魚人”だろうか。しかしRPGで見るような怪物然とした姿ではない。顔付きや体格は愛らしい少女のそれ。むしろ人魚や妖精といった類のものに思えた。

 ねえ、と呼び掛ける。
 恐怖はなかった。見た目ゆえ、ではない。怖がるようなものではないと、どうしてか理解できていたのだ。
 少女の瞼がゆっくりと開かれる。とろんとした目でマリーを見詰め、欠伸を一つ。目を擦り、伸びをして、その動作はあまりにも人間くさい。
 ねえ、と呼び返される。
 聞き覚えのある声だった。ずっと前から知っていたような、知っていることが当然であるかのような、そんな感覚だった。

 待ちくたびれたと、少女は頬を膨らませる。
 あたしを? と問い返せば、他に誰がいるのよと悪戯っぼく笑い掛けられる。

 さあ、と少女が手を伸ばす。マリーは何の躊躇いも疑問もなく、その手を取った――

 
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