□不定期(2018-2021)
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【観察日記】
「ブラックセラフィモンってさ」
エルドラディモンの城の中、食後に談話室で思い思いの時間を過ごしていたときのこと、不意にそう切り出したのはマリーだった。
記憶を振り返るように一度上方を仰ぎ、アユムを真っ直ぐに見据えて言い放つ。
「なんか気持ち悪かったよね」
「脈絡のない誹謗だな」
「いやいやなんて言うかさ、ほら、“ワルモノです、ニセモノです”って感じ?」
「ちょっと分かるかも」
なんてジェネラル殿にまで同意されては何も言い返せない。
まあ、確かにわざとらしいほどにそういうカラーリングとデザインではあったが。そこの文句については自分を操っていたサタナエルに言ってもらいたい。
「あれって他のデジモンにはなれないの?」
「無茶を言ってくれる。どこにそんなデータがあるというんだ」
「ああ、そっか。セラフィモンはサル……サルゲットしたんだっけ」
「サルベージね。でも、データさえあればできなくはないのね」
「対象のデータ丸ごととなると入手は難しいだろう。倫理的にも、な」
「倫理的?」
「墓を掘り返して死体を手に入れたようなものだからな」
デジモン一体を丸々再現するにはデータもほぼ丸々必要になる。生きたまま捕えるか、殺して丸ごとロードするか、だ。
「そりゃ正義の味方になったらできないね」
「そういうわけだ。軍事利用はほぼ無理だな」
なんて言って話を終わらせ、談話室を後にする。
そう、“ほぼ無理”、なのだから――
◆
マリーたちと別れ、自室に戻る。そして、デジヴァイスを取り出す。
セラフィモンのデータもあの時の自爆で大半を失った。あれほど完璧なデータはもう手元にない……が、セフィロトモンがスキャンしたデータだけでも“ガワ”を繕うことくらいはできるかもしれない。
それに大半を失ったとはいえ、ブラックセラフィモンもデータの一部は残っているはず。両者を組み合わせればそれなりに再現はできるだろう。
あの戦いで傷ついたセフィロトモンの実体化はまだ難しいが、内部世界自体はスピリットの中に存在している。メルキューレモンであれば入ることは可能だ。
「スピリット・エボリューション」
鋼のヒューマンスピリットによってメルキューレモンへと進化する。
物は試しだ。少し実験してみるとしよう。
意識を集中し、セフィロトモンの中へ精神をダイブさせる。
◆
file.1「ベルゼブモン」
もったいぶる理由もない。まずは保存されたデータの中で最強のデジモンから試してみることにする。
封印されていたベルゼブモン、復活した新生ベルゼブモン、そしてブラックセラフィモン。断片的なデータをパズルのように繋ぎ合わせ、足りない部分を補完する。
そうして……“ニセベルゼブモン”としか形容しようのないナニカが誕生するのであった。
ベースはベルゼブモン。緑色のボマージャケットに、肩や膝にはブラックセラフィモンの鎧のパーツ。なんともアンバランスで、マリー辺りは指を差して笑ってきそうだった。
file.2「ホーリードラモン」
ベルゼブモンは確かに強いが、このエリアにいた時間は極僅かだった。スキャンできたデータもそれだけ少なかった。ここに長く滞在したデジモンのほうがデータも多く、高い精度で再現が可能だろう。
ならば次はホーリードラモンだ。
同じくブラックセラフィモンの断片データで補い、聖竜の姿を構築する。
毒でも浴びたような緑色の体毛、まるで噛み合わない鎧を所々に纏ったおかしな竜ができあがったので、そっと元に戻った。
file.3「スラッシュエンジェモン」
どうやら問題は繋ぎとして利用したブラックセラフィモンとの相性にあるようだ。
であれば同じ天使型のデジモンならどうだろうか。
傷を負ったスラッシュエンジェモンはセフィロトモンの中で療養していたはずだ。滞在時間も申し分ない。
そうしてできあがったのは……スラッシュエンジェモンを緑色にし、所々にブラックセラフィモンの鎧を纏ったデジモン。ブラックスラッシュエンジェモン――名前は長いが今までの中では出来は一番いい。
file.4「ドミニモン」
file.5「クラヴィスエンジェモン」
スラッシュエンジェモンに手応えを感じ、ドミニモン、クラヴィスエンジェモンと実験を続ける。そのうちふと、気になるデータを発見する。
セラフィモンのデータに妙な反応を見せたそれは、どうやら同じ三大天使――オファニモンのものであるようだった。
やつらは元々三大天使の部下、何かしらの力を与えられていたとしても不思議はない。
となれば……やることは一つだろう。
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