□不定期(2018-2021)
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【メカニカルな狼】
これまでの粗筋!
デジタルワールドに迷い込み、元の世界へ帰る手掛かりを求めて旅をするヒナタ。ひょんなことから光のヒューマンスピリットに続き、ビーストスピリットも手に入れるのであった。
「これがビーストスピリット……」
白い狼の形をしたアーティファクト。ヒューマンスピリットのヴォルフモンもまた狼を模した戦士だったが、ビーストスピリットはそのまま狼のような姿になるということだろうか。
自分が四足歩行の動物になるだなんて想像もできないけれど……
「ねえねえ、早速使ってみようよ!」
「そうだな、ちょっと試してみろよ」
なんてマリーとインプモンが口々に言う。随分と気軽に言ってくれるものだが、
「でも、最初は暴走するかもしれないんでしょう?」
「うん、するする。めっちゃする」
「めっちゃするんだ……」
「だからこそだよー! 使ってみないと慣れないでしょ」
「そりゃそーだな」
むう、確かに戦闘で急に使って暴れ回るよりはずっとマシか。一理ある。あるのだが……
ふむと、眉を潜めて思案する。そんな私にインプモンとマリーは顔を見合わせる。
「あたしが進化して止めるから大丈夫だよ?」
「他に心配事でもあんのか?」
「心配事、というか……」
こんなことを言っていいのかわからないのだけれど、インプモンにとってはどうでもいいことだろうけれど、ただ、私という女子にとっては大事な問題なのだ。
「これ、狼よね」
と、光のビーストスピリットを差し出して問う。
「狼だね」
「それがどうしたんだ?」
「私、四つん這いになるの嫌なんだけど……」
「「そんなこと?」」
マリーとインプモンの突っ込みが見事にハモる。
そんなこと、というのはまあ確かにそうなのだが。
「進化してみたら意外と気になんないよ? あたしとか下半身イカだし」
「でも上半身は人っぽいでしょう。これ、完全にただの狼よ?」
「これとか言ってやんなよ……」
伝説の闘士をこれ呼ばわりは自分でも確かにあんまりだったとは思うが、つい口が滑ってしまったのである。
「でもほら、メカだよ、メカ」
「確かに機械っぽいけど……」
「狼型の戦車にでも乗り込んでると思えばよくない?」
「戦車、かぁ。確かにそれなら。いや、でも……」
「めちゃくちゃゴネるな……」
そんなインプモンの指摘はまあ、もっともではあるのだが。くだらないことでゴネている自覚はあるが、気になるものは仕方がない。
だが、確かにこの先一度も使わずに、なんてわけにはいくはずもない、か。
「はあ、わかった。使います」
「やったー、さすがヒナタ!」
「何がさすがかわからないけど……暴走したら後はお願いね?」
「オッケーオッケー、マリーちゃんにおまかせあれ!」
軽く言って親指を立てるマリー。と、その横でなぜか同じポーズのインプモン。あなたは何もしないでしょうに。
私は溜息を一つ。スピリットをデジヴァイスに収め、左手の掌へ視線を落として意識を向ける。左手が輝き、デジコードが現れる。
ヒューマンスピリットの時は一つだったデジコードの輪が二重三重に手を覆い、球体のようになる。いまだどうやっているのか自分でもさっぱりだが、表出した私自身のデジコードを、デジヴァイスでスキャンする。
「スピリット・エボリューション」
デジコードの輪が帯となって広がり、繭のように私を包む。激しい光の中で私という存在が書き換わっていく。
「っ……ぐ、ぅ……!」
変異する血肉と骨子。血潮が燃えて、力が漲っていく。内から溢れる衝動に叫びそうになる。
「ぐ、う、うぅぅ……――“ガルムモン”!」
私でない私が己の名を告げる。
デジコードの檻を蹴散らすように、白亜の機械狼が顕現する。
鋼の四肢、背には刃の翼。マリーの言った通り、進化してしまえば何の違和感もない。四足でどう駆けるのか、翼をどう繰るのか、すべて知っていた。
知っては、いたが……
「わあ、やったね! かっこいっ!」
「なんだ、落ち着いてるみたいだな」
「ほんとだね。どう、制御できそう?」
「ぅ……り……」
「え?」
ビーストスピリットの力は、たとえるならまるで暴風のようだった。どう手綱を掛けていいのかさえ分からない、形のない力の奔流が私の中で荒れ狂う。
これを、制御できるかって?
「ごめん、むり」
それだけはっきりきっぱり言って、私は諦めることにした。どことも知れない荒野へ、駆け出しながら。
そして始まるメカニカルな狼とフライングなイカの追いかけっこ。私が二足歩行に戻れたのは、それから小一時間ほど後のことだった――
-終-