□不定期(2018-2021)
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【最後の切り札】


 デジタルワールドでの冒険を終え、リアルワールドへと戻った選ばれし子供たち。戦いの日々が嘘のように平和な日常を過ごすマリーたちだったが……そんな折、突如として事件は起こった。
 始まりは空に現れたオーロラ。それは気候も時間も地域も関係なく、断続的に現れては消え、消えてはまた現れる。
 そしてオーロラの出現とともに決まって起こる、電子機器の誤作動や通信障害。
 テレビでは有識者たちが電磁パルスがどうのと議論を交わしていたが……極一部の人の目には、選ばれし子供たちの目には原因など明らかだった。

 ニュースで流れるオーロラの映像。多くの人の目に触れているのに、多くの人は気にもしないそれ。
 少しだけ“ずれた世界”に存在するデジモンたちの姿を、認識できるものは限られていた。
 だからこそ、これは他の誰でもない、自分たちの役割なのだと、彼らは再びデジヴァイスを手に、立ち上がることを決意するのであった。
 だが――

「破壊セヨ、破壊セヨ、破壊セヨ……」

 機械的な音声でうわ言のように繰り返し、デジモンたちはなお攻撃の手を緩めない。
 迷い込んだだけというなら保護し、どうにか向こうと連絡を取って帰る手段を……なんて考えていたが、当の彼らにはそんな気などさらさらないようだった。
 こちらの言葉にはまるで聞く耳も持たず、ただ淡々と街を破壊する。
 その姿を認識できない人々にとって、姿なき破壊者は恐怖以外の何者でもなかった。

「何なの、こいつら……!」

 マリーが姿を変えた水の闘士、カルマーラモンが苦しげに言う。
 デジタルワールドでの冒険では一度も出会うことのなかったデジモン。セフィロトモンのデータベースに記されていたその名にも、聞き覚えはなかった。

 巨大な腕とコネクタのような尾を持つ淡黄色のサイボーグデジモン・ライジンモン。
 両腕にバーナーのような光の刃を持つ緑色のマシーンデジモン・フウジンモン。
 背にニ門の砲を持つ多足型の赤いマシーンデジモン・スイジンモン。

「いずれも究極体か、それも……」

 誰にともなく呟いて、アユム――メルキューレモンは交戦するライジンモンへ忌々しげに舌打ちをする。
 エネルギー弾やビームの類いであれば“イロニーの盾”でそっくりそのまま跳ね返してやることもできるが、格闘戦主体の相手ではそうもいかない。いや、わかった上で砲撃主体のスイジンモンと戦わせないよう執拗に自分を狙ってきているのだ。
 灯士郎――カイザーレオモンにはフウジンモン、そのスピードで雷撃を撃たせる隙も与えず、死角からヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
 そしてカルマーラモンにはスイジンモン、絶え間ない砲撃によって近付くことさえできずにいた。

 ビーストスピリットの基礎性能は完全体上位から究極体下位といったところ。自らの土俵にさえ引きずり込めれば究極体とも十分に渡り合えるが……こうまで長所を封じられてはあまりに分が悪い。
 おまけに――

「……っ!? 駄目っ!」

 突如として自分から逸れた砲口に、カルマーラモンは悲鳴のように叫び、自らその砲口の前へと飛び出す。

「カルマーラモン!?」

 その行動の意味に気付いたメルキューレモンとカイザーレオモンは咄嗟にフォローに回ろうとするも、ライジンモンとフウジンモンはそれを許さない。
 スイジンモンの砲撃は防御さえできないでいるカルマーラモンの身体の中心に直撃し、その身を焼き焦がす。
 舞い散る光の粒子とデジコードの中でカルマーラモンは人の姿に戻る。スピリットに守られてはいたものの、衝撃にマリーは地面を転がり、低く悲鳴を漏らす。
 それでもどうにか顔を上げ、マリーは自らの後方、遠い海上へと視線を向け、ほっと息をつく。
 スイジンモンが狙いを定めたのは、遠方の海上を偶然通りかかった船舶だった。カルマーラモンが身を呈して庇わなければどれだけの犠牲が出たことか。

「こいつら……!」

 マリーに気を取られたその一瞬に、メルキューレモンとカイザーレオモンも組伏せられてしまう。
 わかっていたのだ。船を狙えば必ず守ると、仲間が危機に晒されれば隙ができると、すべてわかっていたのだ。

「駄目、行かせちゃ……絶対に……!」

 その電子頭脳にどれだけの悪意をインプットしたのか。ただ敵を排除し、ただ街を破壊し、ただ人を殺す。そのためだけにこの世界へ現れたのだと、マリーたちは理解した。
 だからこそ、絶対にここで止めなければならない。そうでなければ……街が、家族が、友達が――
 己の無力に、思わず涙が頬を伝う。
 その時だった。マリーたちの目の前に、いつか見たその光景が広がったのは――

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