□不定期(2018-2021)
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【天国から地獄】
勝った……!
そう確信し、東軍の将は内心ほくそ笑んだ。
あてがわれた戦力の貧弱さに最初は絶望すら覚えたものだが、それはただの弱卒などではなかった。
手を取り合い、力を合わせることで、彼らは戦局を僅か一手で覆すほどの可能性を秘めていた。
そう、それは、天と地が翻るほどの逆転の妙手であった。
常勝無敗の北軍の名将が堅実な一手を繰り出す。
勇猛果敢なる西軍の剛将が負けじと強気に攻め立てる。
狡猾な南軍の智将はまだ手の内を見せず、様子見といったところか。
そのすべてが、狙い通りだった。
まだだ。
焦ってはいけない。
機を待たねばならない。
確実に彼ら三将を討ち取るその、勝機を。
戦局は中盤、我が軍は圧倒的劣勢。敗色濃厚。勝ちの目はもう見えない。
そう、彼らが考えたであろうこの瞬間が、千載一遇のチャンスだった。
すかさず我が軍の最大戦力を投入する。
敵軍にはこれを打ち破る手があるはずだ。だがこのタイミング、この局面で切り札を切ることはしないだろう。
しかして三軍の将たちは、東軍の将が思い描いた通りに兵を退かせた。
早々に奥の手を見せてしまったと、悪手であると、彼らはそう思ったことだろう。それが起死回生の一手となるなど、夢にも思わず。
ここだ……!
訪れる最初で最後の好機。
将の号令に幸運の“七”を冠する四人の兵――東軍の秘蔵っ子がいよいよもって出陣する。
そして場に叩き付けられる四枚の7のカード。すなわちそれは、
「あーっはっはっはー! “革命”だああぁぁーー!」
東軍の将――卵の殻を被ったヒヨコのアバターに大袈裟なモーションを取らせ、マリーは高笑いを上げる。その様は到底、ただの「大富豪」で遊んでいるとは思えないテンションだったが、他のプレイヤーたち――ヒナタ、アユム、灯士郎の三人は気にする様子もなかった。
賑やかなのはいつものこと。いつもよりもう少しハイではあったが、それはゲームの前に持ち掛けた“賭け”の所為だろう。
「ほうら、もう勝った! さあ、アユムぅ〜? 約束通り例の恋バナの続きを……」
「革命」
なんて言いながら南軍、ロバのアバターのアユムはしれっと6を四枚出してみせる。
「え?」
「出せるカードはないな? では流すぞ」
「あれあれ、あれぇ〜?」
マリーの戸惑いなどお構い無し、三人は次々と手札を切っていく。
「ああ〜! 待って待って、あたしもう強いカードが……!」
「あ、私上がり」
なぜだかいつも妙に引きがいい北軍、ネコのアバターのヒナタが一位抜けの大富豪となる。
「私も上がりだ」
といって続く富豪はアユム。
「む、上がりだ」
惜しくも三位の貧民は西軍、イヌのアバターの灯士郎。
つまりは必然的に、マリーは最下位の大貧民であった。
「あああああぁ〜〜……!」
なんて声を上げながらヒヨコは崩れ落ちる。
が、すぐに立ち上がる。その羽の先を一本指のように立て、めげずに言うのである。
「もっかい!」
だが無情にもロバは肩をすくめると小さく首を振った。
「悪いが今日はここまでだ。また今度遊んでやる」
「え〜? 何か用事でもあるの?」
「ああ、買い物に付き合う約束でな」
「へー、そっかぁ……じゃないしぃ! いやまさにそれを聞きたいんだけど!?」
「ならしょうがないか、今日はお開きね」
「なんでみんな気になんないの!?」
そんな叫びがネットの海にこだまする。
露崎真理愛、14歳。他人の恋路が気になる、お年頃であった。
-終-
SS第94弾はリクエストお題【天国から地獄】です。
なんだかんだお前ら仲いいな。っていう。